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システムはユーザー(業務)部門が使って”なんぼ” その実現に、IT部門主導でPDCAサイクルを回そう

更新: 2014年5月1日

構築・導入したシステムを運用開始する時、2つの表現があります。 ひとつは無事システムを作り上げて送り出すことを意味する「カットオーバー」。 もうひとつは、システムが業務利用に供されることを示す「サービスイン」です。 2つの表現は同じことを示しますが、意味は180度異なります。

IT部門はユーザー部門の要求を把握し、最適なITを適用して納得のいくQCD(品質・コスト・時間)で構築・導入することに責任を持ちます。従って、完成したシステムの本番稼働を持って一応の責任を果たすことから、カットオーバーと呼ぶことが多いようです。 ユーザー部門はシステムを利活用して成果を上げることに責任を持ちます。このため「これから活用するぞ!」との思いも含めてサービスインと呼んでいます。 このこと自体、IT部門のリーダーはよく考えてみる必要があると思いますが、本題はこのことではありません。構築・導入したシステムが果たしてどの程度、利活用されているのか、そこにIT部門は留意しているのだろうかが本題です。

利活用の度合いをモニタリングすれば、次の一手を講じることができます。よく使われているシステムは、もっと使いやすくできる可能性がありますし、あまり使われていないシステムは原因を明らかにして改善を施すことで使ってもらえるようになります。改善しても利用されないシステムもあるかもしれません。それらは早めに廃棄することで維持コストを削減できます。 筆者もその昔、構築・導入に携わったシステムを本番稼働させた後、「ちゃんと利用されているだろうか」、「使い勝手はどうなんだろう」といったことが、気になって仕方なかったことがあります。実態を把握するために、利用者にヒアリングしたり、ユーザー部門と一緒に利用ログを分析して改善策を協議して案件化するといった活動に明け暮れもしました。 しかしIT部門の役割は、システムの調達・構築、そして安定稼働です。新規案件が次々に発生し、仕事に慣れるにつれ、そういったことから遠ざかり、構築・導入に専念するようになりました。言い訳するわけではありませんが、本来、利活用状況をモニタリングしてシステム化の効果を測定したり、費用対効果を検証するのはユーザー部門の役割でしょうから、そのことに問題はなかったと思います。 ですが、ユーザー部門では企画した担当者の異動が少なくありません。しかも本業はシステムを利活用した業務遂行であり、システム化の効果検証は本業でも何でもありません。多くの場合、きちんと把握できていないのが実情です。 ではどうすればいいのでしょうか。

やはり、ここはIT部門の出番だと考えます。 IT部門の役割はカットオーバーを迎えれば完了ではなく、サービスインからの長い道程こそが重要だと認識すべきです。多大なコストと労力を注ぎ込んだシステムが業務に役立ち、投下した投資を回収できるかどうかは、開発期間の何倍もの本番運用期間にユーザー部門がどれだけ利活用するかにかかっています。 したがってIT投資に責任を持つIT部門が主体となり、ユーザー部門を巻き込んで利用ログなどを分析して利活用状況や効果をチェックし、改善や活用推進などのアクションを定期的に実施していくことが欠かせません。これまではシステムを企画(Plan)して構築・稼働(Do)させるまでで終わっていたプロセスに、効果を測定(Check)して対策(Action)を図るプロセスを加えます。 このPDCAサイクルを完成させ、回すことがIT部門の役割といえるでしょう。

そうはいっても測定(Check)と対策(Action)を定着させるのが一筋縄でいかないのも事実です。 ではどう取り組めばいいのでしょうか?

筆者が勤務するふくおかフィナンシャルグループでは、初期投資額が一定額以上の案件について稼働後5年間にわたり投資対効果を検証するルールを策定、2011年から取り組んでいます。 IT部門とユーザー部門が協力して利用状況やKPI達成率をモニタリングし、効果検証の結果と対策を、半期毎に経営に報告するのが骨子です。 稼働済みのシステムについても不定期ですが、システム構築費用を処理件数で除することで、処理1件当たりのコスト(トランザクションコスト)を算出。コストの妥当性を検証しシステムの利用推進や、廃止または改善など、対策を協議しています。これらのチェック・アクション活動を制度化して3年が経過し、IT不良資産の発生を抑制できるようになってきました。協議・報告の場に経営やユーザー部門が参画することで、システムに対する理解の浸透も図られています。

最近は構築に携わるベンダーの方々も、「これで完成ではありません、構築後もきちんと利活用状況をモニタリングし、改善します」との思いを込めて「カットオーバー」ではなく、「サービスイン」と表現されるところが増えてきました。 これからはベンダーの方々にも参画いただき、利活用状況をきちんとモニタリングして、必ず効果が出せるように次の一手を打っていく計画です。

なにしろ苦労して構築・導入したシステムが使われないことほど悲しいことはありませんから!

株式会社ふくおかフィナンシャルグループ
経営企画部 部長
河崎 幸徳