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今、IT部門に求められる「アナログ思考」

更新: 2015年1月1日

主題にある「IT」と「アナログ」は相反する表現かもしれない。IT=デジタルであり、アナログとは対極にあるからだ。しかし筆者は、これこそがITの本筋ではないかと思う。

ITはビジネスのプラットホームであり、それなしでは日々の業務遂行に支障が出るのは間違いない。電気やガス、水道、電話(今や電話も進化してモバイルになりつつある)と同じで、安定運用が欠かせない。想定通りに動いて当たり前であり、課題や障害、問題が発生した時、IT部門は話題に上がる。非難の的にもなる。これまでも、これからも、それは変わらないだろう。だからこそIT屋(情報システム部門のことだ)は、先端のITを取り込みつつも、ビジネス継続(BCP)も含めて全体最適、危機管理、生産性向上などを実践する必要がある。

しかし、それだけだろうか?言い換えれば、それをしっかりやっていればいいのだろうか?そうではないと思うのだ。ITが社会や企業に溶け込み、これまでできなかったことが可能になりつつある中で、企業はグローバル競争を戦う武器としてのITを装備しなければ、成長はおろか、生き残りさえ見込めない。

IT屋としてシステムを確実に運営し、もしくは製品や技術の動向を把握するのは当然だが、それはあくまでもHowである。そうではなく、ビジネス環境や企業の方向性、戦略、目的、方針、ビジョンなどをWhatとし、これに対応する付加価値をつけて初めて、ITは武器になると筆者は考える。いわゆるビジネス戦略とIT戦略の融合である。何しろITを作るのも、使うのも、そして武器にするのも人間、すなわちアナログである。活用する人の目線に立ち、その先を見てこそITを活かせるのだ。

なぜこういう話をするかというと、ビジネスの全体像やプロセスの全体が見えないIT屋が増えているように思えるからだ。担当外の業務やシステムが、ブラックボックスになっていると言い換えることもできる。ITの高度化が進む中で業務の分業化や専門特化が進み、また極めて高度な技術になるとお任せや丸投げに行き着くのも、理解できないではない。総合的に全体を見渡すことを経験する、あるいは肥やしになる失敗の体験を得る機会が、少なくなってきている事実もある。

しかしアナログの世界は、デジタルのようにきっちりインタフェースを決められないのが特徴だ。分業化や専門特化が行き過ぎた結果、ブラックボックスが生まれてしまっているとすれば、それは本末転倒である。そこで行き過ぎを揺り戻す意味を含めて、今一度、使う側、あるいは最終顧客の要求に真摯に向き合う必要があるように思う。御用聞きになれという話ではない。ガバナンス、優先度、セキュリティなど保持すべきものは保持し、Nice to haveなのか、must Haveなのかを目利きする話である。

何よりもITは一般には「Inforemation Technology」の略だが、今日では「Innovation,Transformation」が求められている。その対象はビジネスや事業であり、組織であり、そして人である。だからこそ信頼と尊敬の上にたったアナログ面からの見直し、古風な言い方を許していただくなら「アナログ知見の伝承」が必要だと考えている。

日本たばこ産業株式会社
IT部長
引地 久之