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『失敗の本質』から学ぶ、実践的リーダーシップとは?

更新: 2015年2月1日

少し前の話だが、筆者は情報システム責任者として基幹システムの刷新を終え、ホッとしたのもつかの間、弊社のある赤字事業を1年間で黒字化する任を受けたことがある。この時、『失敗の本質』(野中郁次郎ほか著)という本を参考にし、事業の構造改革に取り組んだ。ここでは、その経験から得たリーダーシップについての、筆者なりの見解を紹介する。諸般の事情で事業名や数値などは伏せさせていただき、構造改革を実践した本質論を述べるにとどまることをお許しいただきたい。

いきなり横道にそれるが、『失敗の本質』は大東亜戦争で実際に起きた6つの戦闘を研究し、敗退した要因を旧日本軍の戦略や組織面から分析しているビジネス書である。企業の経営者や事業リーダーの方々に読まれ続けているので、ご存じの方も多いと思う。本書が指摘する失敗の本質の要旨は以下のようなものである。

1)環境変化に合わせて主体的に戦略や体制を改革できない硬直化した組織
2)ゴール(目的)の不明確さと意思統一の不徹底
3)戦力の漸次または分散投入
4)結果に対する責任のあいまいさ、かつ失敗要因に対する組織学習の不在
5)敵の戦力・戦略の過小評価と、成功体験からの自軍の過大評価

ここで本題に戻ると、2011年9月、ある事業の構造的な赤字が発覚し、CEOから1年間で黒字化するよう任命を受けた筆者は、翌2012年に事業責任者に就任した。まず赤字の要因を事業損益やBIデーターから分析するとともに、お客様の声や社内外の関係者のヒアリングを実施した。その結果、責任体制の不明確さ、サービス品質の劣化、お客様の要望や時代の変化に対応したサービス進化や変革が不在など、数字の裏づけや数字には表れない問題の本質を再認識することができた。

構造改革を実践するにあたり、当たり前のことだが、事業の最大の目的であるお客様の満足度向上と継続的な進化という原点を守ること、単なるコストカットにならないことを肝に銘じた。次に課題を“事業損益”、“サービス品質改善”、“事業モデル改革”の3つのテーマに仕分けし、改善すべき素材とそれぞれのアクションプラン、目標ゴールを1枚のシートで表わし、メンバー全員と合宿を行い目的と目標の意思統一を行うことから始めた。

スタートして10カ月。様々な取り組みを行い試行錯誤もしたが、ともあれ月次ベースで赤字から脱却し、再び赤字に陥らない事業構造基盤を構築し、かつ新たに成長戦略のための構造改革へと舵を切ることができた。なぜ10ヶ月という短期間で結果を出せたのか?
そもそも問題の火種(原因)は全て現場にあった。筆者としては、「失敗の本質」の指摘を睨みながら、全体を俯瞰して決断してきただけである。まとめると

1)赤字の要因だったサービスの継続、廃止を立体的に、かつできるだけ早く決断した
2)組織をフラット化することで決定スキームを早くした
3)メンバー全員に具体的なゴール(短期、中期)を共有させ、全員に課題解決のボールを持たせたうえで、一人称でゴール【結果を出す】させた
4)判断を迷う場合は自ら現地・現場に出向き、事業責任者の目線で意思決定した

である。表現は違うにせよ、内容は「失敗の本質」と同じであることをお分かりいただけると思う。この経験から、リーダーシップに必要な要件としては、即断即決する“フットワーク力”、“責任を取るリーダーシップ力”、そして“目的や夢を全員に周知するポジティブマネジメント”に尽きる、と考える。

同時にこれらは、これからの情報システムをマネジメントするCIO、およびIT部門に求められることでもあると思う。情報システムを武器として企業や事業の改革を率先して担う、業務改革部門としての役割、それがIT部門だからだ。そうでなければIT部門は組織として終焉するというのは、言いすぎかも知れないが・・・。

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