cio賢人倶楽部 ご挨拶

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コミュニケーションを考える

更新: 2015年8月11日

 CIO賢人倶楽部では、CIOの心得の基本として「トップとのコミュニケーションの重要性」を謳っている。経営や事業の先行きにITが大きな影響をもたらすようになった今、CEOやCFOとCIOのコミュニケーションが非常に大事だからだと思う。しかし逆に見れば、基本として謳う必要があるほど難しいとも言える。

 何しろCIOは予算や案件の管理、日々生じる様々な問題やトラブルへの対処などで忙しいうえ、IT技術は目まぐるしく変化・進化する。ビッグデータやクラウド、あるいはセキュリティなど次々に登場するIT技術やそれに関わる問題を自らが理解し、そして知らない人に理解してもらうのは並大抵ではないからだ。あらゆる比喩や事例を駆使して説明しても、しっかりと分かってもらえたと思えることはそう多くないのではないか。

 ところで辞書で「コミュニケーション」を引くと、「社会生活を営む人間の間で行われる知覚・感情・思考の伝達、(生物学)動物個体間での身振り・音声・匂い等による情報の伝達等」とある。しかし長年、コーポレートコミュニケーションに携わってきた筆者としては、情報の伝達を行うだけでは十分なコミュニケーションとは言えないと思う。恥を承知で言えば、筆者自身、過去に何度もコミュニケーション上の失敗をしてきた。実はコミュニケーションで重要なことは『相手の行動を伴う』、『意思を正確に共有する』という観点である。

 例えば新製品を報道発表するケースを挙げてみよう。開発部門やマーケティング、広報部門、担当役員など多くの関係者によるコミュニケーション・プロセスを経て、企業の『想い』を持って発表するようなケースである。しかしいざ発表してみると、当事者側の期待とは裏腹に報道されないか、ごく小さな扱いになってしまうことがままあったのだ。『相手の行動を伴わないコミュニケーション』の例である。

 もうひとつ、これは筆者の知人の話だが、M&Aを伴う新規事業展開を海外において行うという趣旨の記者発表の例を挙げよう。社長や事業担当役員が発表会に出席し、新マーケットにおける買収によるシナジー効果、自社ビジネスの優位性の拡大、今後の事業展開による収益への貢献などをクリアに説明したはずだった。

 だが翌日のメディア各紙を見てその内容に驚いたという。中核事業の陰りを補うために無理なM&Aを仕掛けた、被買収企業との企業文化が異なるので先行きは厳しい、など全く違う点が強調されて報道されたのである。もちろん、そうした見方があり得ることは織り込んだ上で万全の説明をしたつもりだったが、メディアの捉え方はそうではなかった。これが『相手の理解とのギャップを埋めていないコミュニケーション』の例だ。

 これらは企業広報のケースであり、相手がメディアだけに分かりやすい。企業内の人と人のコミュニケーションは相対的に分かりにくいが、『相手の行動が伴わないコミュニケーション』、『元々介在するギャップをうめきれてないコミュニケーション』は少なくないと考えられる。どうしても自己・自部門中心、一方通行の伝達となりがちで、それがコミュニケーションを阻害する要因としてのノイズになるからである。

 そうしたところから筆者は、事業やカバーエリア、立場が異なる人や組織とのコミュニケーションにおいては、日ごろから互いのギャップを理解し、様々な阻害要因をいかに少なくするかが鍵になると考えている。そのために日ごろから高いアンテナを張り、経営トップや利用部門の課題、状況をしっかりと把握しておくこと。コミュニケーションを成立させるには、この実践が必要だと思う。

KPMGコンサルティング
シニアマネージャー
髙橋 直樹