オピニオン
クラウドの時代だからこそ、やってみることが重要
更新: 2015年10月1日
私がスシローに入社し、情報システム部長となったのは2011年のこと。わずか4年前だが、当時は黒い表紙のスシロー手帳でスケジュールを管理し、稟議書には印鑑を押して回覧し、経費精算は分厚い複写式の台帳に手書きで記入していた。メールも社外はインターネットメール、店舗とは社内用のグループメールというふうに使い分けており、支給されるノートPCは画面が小さくて重かった。
それまでアクセンチュアとGeneralEletricに在籍し、充実したITインフラを当然だと思ってきた私にとって、ノートPCが重いという共通点を除き(笑)、紙ベースの非効率な世界は信じられない光景だった。理由はすぐに理解できた。スシローでは食材原価率を50%もかけており、本社や設備に余計なお金をかける余裕が全くなかったのだ。
とはいえ情報システムを担う以上、予算がないからと放置するわけにもいかない。ちょうど内部統制上の課題から稟議のワークフロー化を求められており、これに便乗して改革を進めることにした。ワークフローに採用したのはGoogleAppsである。GmailとGoogleカレンダーがおまけでついてきた。
周囲からは「新しいシステムは使ってもらえないリスクが高い」と言われた。そこで一計を案じてモバイルルータを廃止。浮いたお金でガラケーをスマホに変えてモバイルの利便性を向上し、さらにPCも新型のウルトラブックに変え、新しいシステムへの抵抗感を和らげるようにした。すると導入は歓迎され、あっという間に定着していった。
オンプレミスだとシステム構築に相当の投資と労力が必要だが、クラウドサービスならば多少使い勝手が悪くても、驚くほど手軽に低コストで導入できる。その分、システムを使ってもらうことにお金と知恵を使うことができ、結果として使い勝手の良いITインフラを構築できたと思う。
次に行ったのはデータ分析だ。スシローでは寿司皿にICタグを取り付け、データを収集していたが、十分に活用できていなかった。詳細に分析しようにも、宝の山かごみの山かもわからない以上、分析のための投資ができないのは当然である。そこでクラウドを利用して、データの価値検証を試みた。
検証はやろうと思ってからわずか3日でできた。普段よくデータを見ているメンバーと確認していくと様々な気づきがあり、データの重要性を共有できた。保有しているデータの欠点も明確になった。我々にはクラウドやBIツールの技術知識はなかったが、ベンダーのサポートのおかげでスムーズに作業が進み、費やしたコストはたったの10万円である。それでも検証のおかげでDWH構築の意思決定やマスターデータのメンテナンスに着手でき、現在のデータ分析環境が出来上がった。
繰り返すが、たった3日、10万円の投資で取り組むべき課題が明確になったのである。しかもクラウドサービスはサーバーの時間貸しサービスから、サーバー周辺の様々な機能を提供するマネージド・サービスへと進化している。やることを躊躇するよりも、やらないリスクを考えるべきことは明らかだろう。スシローでは使えそうなサービスはとりあえず試してみて、特に便利だと感じたデータベース管理やサーバーの冗長化はマネージド・サービスを標準とした。運用負荷の軽減や可用性の向上を確実に実現できるからだ。
以前なら、これらの高度な機能を利用するには専門の技術者が必要だった。今日のクラウドではベンダーとパートナー企業によるエコシステムが形成され、安心して利用できる環境が整っている。試すことをせず、食わず嫌いでいると競合他社に差をつけられてしまう恐れがある。それどころかシャドーITが流行り始めた最近は、業務部門に先を越されてしまうケースまで発生している。
ビジネスのスピードが加速している現在、新しいサービスに目を配って使えそうなものはともかく試していかないと、あっという間に競合や社内に置いてきぼりにされてしまうのだ。「やらないリスクを取らされないためにも、とりあえずやってみることが重要」。それがデジタルビジネス時代といわれる今日だと考えている。
元あきんどスシロー
情報システム部 部長
田中覚