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デジタル経営を担えないCIOは席を譲れ

更新: 2019年1月24日

CIO(Chief Information Officer : 最高情報責任者)という職務が日本で認知されるようになってからほぼ20年になる。その当時は当然スマートフォンなどなかった。米国の象徴的なIT企業のGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)もGoogleはまだスタートアップ、Amazonはオンラインブックショップを始めた頃、Facebookは存在しなかった。もちろんクラウドという概念もなかった。

この20年間の情報テクノロジーやITビジネスの変化は凄まじい。今やGAFAは世界時価総額でトップクラスの企業群になっている。サービスの充実も目覚ましい。技術の進化はセキュリティのリスクも高めることとなり、サイバーセキュリティとして安全保障上にも重要な領域になった。これだけの変化があるなかでCIOのロールが変化するのは当然のことである。

では具体的にどう変わったのか?

20年前のCIOに求められていたものは情報基盤の構築、効率的な投資、ITガバナンス、業務の効率化、セキュリティや運用の管理体制作りなどほとんど内向きの課題解決だった。生産現場の人たちの仕組み作りもほとんど手に染めることもなかった。営業支援の仕組み作りくらいは手掛けても主に管理のための仕組み作りが殆どでマーケティングには及ばない。主にインフラとセキュリティが担当分野であって、変わった事といえばパソコンが一人一台に行き渡ったくらいで企業のシステム部門発祥の頃のミッションと大きな変わりはなかった。

しかし、その後の変化は凄まじい。特にこの10年間の変化は不連続でもある。スマートフォンの普及によって本格的なモバイル時代になり、クラウドの普及によってインフラもソフトウェアも構築の仕方が大きく変わった。その環境変化はシステムの対象領域をバックオフィスからフロントへ拡張させ、攻めのITやSoE(Systems of Engagement)やモード2などと表現されるようになった。そしてここ数年は「デジタル」をキーワードに経営を考えるようになり、経営トップまでが危機感を持ってデジタル・トランスフォーメーション(Digital Transformation : DX)を口にするようになってきた。従来の延長ではビジネスの行き詰まりを感じるようになり、経営理念、企業文化、ビジネスモデル、プロセスモデル、サービスモデルの変革ニーズが高まっている。加えて政策的な誘導もあって働き手や働き方の見直し、ワークスタイルの変革など人事労務面の改革も急がれている。

こういう急速なデジタルの波なかで、企業によっては新たにCDO(Chief Digital Officer:最高デジタル責任者)という職務を設けて攻め側の変革を促そうとしている。役割分担によってCIOは守り、CDOは攻めのような構図になると実は上手くいかない。CDOが進めようとするプランや試行にセキュリティを盾に障壁を立てたりしてコンフリクトを起こす。守りのCIOが更に守りに入ってしまうのだ。

そもそもCIOたるものはテクノロジーの変化やそれによって齎される事業や経営の変化に敏感でなければならない。守りも攻めも対象や特性が異なるだけでCIOが包括的に担当すればいいはずだが、事業や経営に関与してこなかったCIOにはその思考がない。それを見極めた経営トップが新たにCDOを任命せざるえないケースもあるだろう。 デジタル経営が謳われる時代にあって、その役割を担えないCIOやCDOの活動の積極的な支援が出来ずに障壁となるようなCIOは即刻その席を相応しい人材に譲るべきだ。時代の求めるスピードは、悠長なCIOを置いておくことすら許さない。

CIO賢人倶楽部 会長
木内 里美