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海外で導入が進むプロセスマイニングをご存じですか?

更新: 2019年4月1日

 皆さんは「プロセスマイニング」を聞かれたことがあるだろうか?最近になって耳にする機会が少しずつ増えているキーワードの1つである。現職でプロセスマイニングツールを活用したサービス開発を担当する筆者の認識では、2018年から世界中の様々な国、企業で爆発的に導入が進み、日本でも2019年になってイタリアCognitive Technologyの「myInvenio」や、独Celonis社の「IBC(Intelligent Business Cloud)」といったツールの提供や導入が始まっている。

 かくいう筆者も恥ずかしながら、1年前には全く知見を持っていなかった。縁あって担当となってから理論を学び、導入事例を収集したりツールの活用法やソリューションを考えるようになった次第である。そして知るにつけ、革新的な手法でありツールであるとの思いを強くしている。そのような立場から、ここでプロセスマイニングの概要、導入のメリットや課題などを紹介させていただきたい。

 プロセスマイニングは、申請、受付、承認などの情報システムに蓄積されたイベントログなどを収集し、業務プロセスを網羅的に可視化、分析する手法・ツールのことである。別の表現をすれば、プロセスに関わるログデータをマイニング(掘削)し、現実に行われたプロセスを再構成するものだ。その対象は、調達から製造、品質管理や販売のほか、経理財務や人事など、企業のあらゆる業務に及ぶ。業務のムダやリスクに繋がる課題などの発見を、効率的に行う手法・ツールでもある。

業務プロセスを可視化、分析するのは易しくない

 それでは、なぜプロセスマイニング・ツールの活用がそれほど重要なのかについて、従来の方法による限界の観点から説明したい。まず業務プロセスの強さ、スピード、業務品質、業務におけるリスクへの対応力が企業の競争力を左右する重要な要素であることは言うまでもない。そのため、多くの企業は以前から『〇〇業務プロセス改革プロジェクト』と名付けた取り組みを実施してきた。もちろん弊社のようなコンサルティング会社でも、多くの支援を行ってきたテーマである。

 特に近年では働き方改革の一環として、定型業務を自動化するRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の導入が業務改革の手段の一つとして急速に進んでいる。その際、業務実態を可視化し、有効性や改善機会を分析し、その上で改善策を実行(RPAを導入)することが必要であり、特に可視化と分析が、成否の分かれ目となる。

 しかし業務実態を可視化するには、事業や業務特性の把握やリスクの知見、インタビューや明文化のスキル、業務改善策のノウハウなどが必要であり、これらを併せ持つ人材は稀有である。またプロジェクトを編成してまで変革するような対象は、通常、複数の部署や人が関わる膨大で複雑なものであり、難度が高くなりがちである。業務プロセスを構成するタスクに要する時間を定量的に捉えることも現実的には難しい。

 可視化/分析の正確性や説得力が高くないと、改善策に対する関係者の納得感の醸成が困難になる問題もある。「理論上はそうかもしれないが、現場はそれでは動かない」といった抵抗に遭い、ひどい場合にはプロジェクトが頓挫してしまう。既存プロセスの可視化と分析は、ことほどさように一筋縄ではいかないのである。

 その結果、従来の業務プロセス改革の取り組みでは、限定的な成果に留まるケースが多く見られることになった。RPAの導入も似たようなものであり、劇的な効果を得るケースがある一方で、思ったような効果を得られないことも少なくない。人手に依存する例外処理が想定外に多く期待効果に達しない、といったことが典型例である。読者にも、このような経験をした方がおられるのではないか。

人手を介さず、膨大なログデータからプロセスを再構成

 それではプロセスマイニング、そのためのツールを使えばどうなるのか?まずツールを利用するための条件から述べたい。最大手であるCelonis社のIBCを例に挙げると、①一意のケースIDが存在すること、②可視化したいプロセスに関わるログが存在すること、③各ログにタイムスタンプが存在すること、④それらのデータが抜き出せること、が利用条件となる。これらの条件を満たしていれば大きなメリットが期待できる。

 最大のポイントは、数日から1ヵ月程度という短い期間で、実際の業務プロセスを様々なパターンとして網羅的に把握できる点である。各パターンや、それを構成するタスクのスルータイム、時間を要しているボトルネック、手戻りが多い例外処理などを、量的情報も含めた「ファクト」として出力するのだ。実績データをもとにしたファクトなので関係者は納得をせざるを得ない。

 さらにボトルネックや例外処理などの問題を生む原因を特定し、RPA化が有効な領域の特定および期待効果の試算機能、あるいは業務の癖をAIに覚えさせて問題が発生する兆候を捉え、対策を事前にアラートするモニタリング機能も備えている。情報化、IT化が進む中で見えにくくなっている業務プロセス全体を、人手に依らずに可視化して分析可能にする点で、筆者は大げさではなく革新的であると考えている。

 もちろん課題もある。業務プロセス改革の経験を持つコンサルタントが多い弊社内でも、期待の声の半面で情報システムに独自カスタマイズが多い日本企業において本当に使えるのかという疑問や、分析結果を実行策にする手法はあるのかといった声が少なからずあった。弊社でもこの状況だったので、企業における導入のハードルは低くはないと考えられる。具体的なイメージを持てるように、事例や活用法に関わる情報の充実がまだ必要な状況なのだ。

 しかしKPMG社内のグローバルサイトには、様々な国や業種の企業における導入事例が日々と言っても過言ではないほどのスピードで増加している。プロセスマイニングへの期待と同時に日本の遅れに関する危機感もある。筆者としては複雑な心境であるが、課題を克服して日本企業の競争力向上に貢献したいと考えており、事例を収集し、発信していく取り組みを計画している。今後の動向に是非ご期待いただくとともに、注目していただけると幸いである。

KPMGコンサルティング 
ディレクター 
山口 隆二