cio賢人倶楽部 ご挨拶

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情報システム子会社の戦略的ポジション

更新: 2019年10月1日

 先日、大手小売業の社長およびCIOの方と会食する機会がありましたが、システム内製化の必要性と当社がなぜ情報システム子会社を設立したのかという話題がほとんどでした。同社を取り巻くビジネス環境と取り組むべき事業変革においてはIT戦略やITの強化が不可欠。しかし従来からの情報システム部門の位置づけや役割、特にITベンダーやITコンサルに依存してきた体質では変革を担うのが難しいし、できないのではという疑問からでした。このような機会に限らず、IT子会社について聞かれたり、議論したりすることは少なくありませんので、ここで筆者の考えをご説明したいと思います。

 まず大手企業における情報システム子会社の役割は従来、ベンダー管理やシステムの保守・運用など、社内ITの実働部隊としての位置づけが主でした。しかしITインフラがクラウド化し、アプリケーションの構造がマイクロサービスになって運用の自動化が進む中、IT部門と同じくIT子会社も自らの役割の変革は待ったなしです。それだけではなく、新たなデジタル技術や先端技術にキャッチアップしないIT子会社は、もはや不要だという見方さえあります。しかしながら筆者は、今後のIT戦略においてIT子会社は欠かせない存在であると考えます。そのように考える理由を当社グループの実態と戦略をふまえてお話したいと思います。

 当社(鴻池運輸)のIT責任者に着任した1年半前、筆者は①デジタルトランスフォメーション(DX)、②事業多角化と変革への対応、③グローバルガバナンス強化という3つのIT戦略を掲げました。同時並行で既存ITに内在する様々な課題も解決する必要があります。これらをどうやって実行すればいいのか?検討の末、重要なWepon(実行部隊)としてITプロフェッショナル組織の創設が急務と結論し、3ヵ月後の2018年7月に大手SI企業との合弁事業としてIT子会社、コウノイケITソリューションズ(KITS)を設立しました。IT子会社の目的や役割は企業によって、また情報システムの変遷によって異なると思いますが、具体的に整理すると、当社グループにおけるKITSの役割を以下の4つに集約しています。

1.ITのプロフェショナル集団化と内製化

 当社の総合職社員は入社以来、運輸会社のゼネラリストとして育成されています。これはIT部門も同じであり、結果としてIT基盤の整備や業務システムの開発を外部委託してきました。IT部門の社員が一定水準以上のITスキルを持つことは当然ですが、しかしITを生業とするプロとは言えません。それが今日、DX推進における大きなハンディになっている面があります。

 実際、クラウドやマイクロサービス、AIやIoTなどによって業務システム構築のあり方そのものが大きく変わる中、またビジネス環境の変化が激しくなる中、従来の大手SIなどに委託するウォーターフォール型開発では、とうてい成果は望めません。 KITSでは当社IT部門とSI会社からの出向社員がペアとなってチームを組み、各プロジェクトを担っています。事業の現場と一緒に新技術にチャレンジする役割も負っています。

2.IT部門のプロフィット化による意識改革

 理由が内製化だけなら、子会社を作らずにIT部門がやればよいと思われるかも知れません。グループ事業会社としてIT子会社を設置した理由は2つあります。1つ目はITを担う社員のプロ意識へのマインドセット。2つ目は、依頼する各部門のITコストに関する意識改革とITリテラシーの向上です。当社固有のことかも知れませんが、今までのIT部門(ICT推進本部)には各事業部門の”よろず相談所”的な面がありました。コスト意識が弱く無駄な仕事も少なからずあって、それを残業でこなしていたのです。

 長年続いた慣習を壊し、また依頼する事業部門とIT部門の社員の意識を変えるにはIT部門の役割を変えるだけでは不十分。IT子会社という新たな枠組みを作ることにしました。KITSがあるので、IT部門の役割は主にIT戦略の策定や経営トップとのリレーション、ITガバナンスなど。事業部門の事業支援や業務改善のための業務システム構築、先端技術導入などの実行部隊がKITSと位置付けました。

3.デジタルトランスフォメーションの牽引役

 企業は今、デジタルトランスフォメーション(DX)の取り組みが求められています。それは新事業開拓、組織改革、人事評価、業務改革など多岐にわたり、当社のような130年以上の歴史を持ち、各事業単位に成長してきた企業グループにとっては、上段からアプローチしても時間がかかると想定されます。そこでKITSを牽引役とし、現場に直接デジタル化を体験してもらうことで業務の在り方を見直し、全体に展開していくことにしました。「KITS=デジタルイネーブラー」という位置づけです。すでに現場におけるIoTやAIのPoC(概念実証)、現場業務のBPR(ビジネスプロセスリエンジニアリング)、RPAの導入などをKITSが進めています。

4.グローバル&先端技術者の人材登用

 国内の有能な若手ITエンジニアは引っ張りだこであり、運輸業に分類される当社のような企業の給与体系では採用が難しいのが実情です。また当社グループはアジアを中心にM&Aを含めて事業を拡大中です。そこでKITSでは独自の報酬体系を用意しました。国内のみならず、アジアを中心に有能なグローバル人材を採用できるようにすることがデジタル化とグローバル化への布石になると考えています。  以上、KITS(コウノイケITソリューションズ)に込めた4つの想いを説明しました。誤解していただきたくないのは、SIパートナー企業やITコンサル企業は不要とか、そうした企業とはつきあわないとかいった考えは、一切ないことです。ITはこれからも急激に進化し、経営環境も変わり続けます。必然的に色々な分野においてITパートナー企業との協業は不可欠です。従来のようなユーザーとベンダーというお付き合いは終わりになりますが、協業を価値あるものにする”win-winのパートナーシップ”を追求したいと考えています。そのためには我々がプロになる必要がある--これもまたKITSを設立した理由の1つです。

鴻池運輸株式会社
ICT推進本部 執行役員本部長
小河原 茂