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2030年に向けた備え その2

更新: 2021年5月1日

 前回このコラムに寄稿したのが2016年、 「2030年に向けた備えはどうあるべきか」という内容だったと記憶している。 当時にしてみればまあ随分と先の話だったが、そこから丸5年が経過して再び機会が巡ってきたので、その間の社会環境の変化も加味し、もう少し身近な話と捉えて「2030年に向けた備え その2」として書いてみたい。

 2016年当時はリオデジャネイロ五輪の直前で、「リオを起点に東京五輪への期待が一気に高まる」と書いている。ビジネス界を賑わせていたキーワードはどうだったかというと、2015年には“インダストリー4.0”や“IoT”、2016年には“デジタルトランスフォーメーション”という言葉が出現しつつあり、また“ものづくり”から“ことづくり”へなどということもよく叫ばれていた。すでにちょっと懐かしい感じがするワードもある。

 5年後の現在はどうであろうか。4月現在、東京五輪が果たして開催できるのかは甚だ不透明である。キーワードは読者によって関心事項は様々かと思うが、やはりDXになるだろう。DXへの備えが2030年までかかってよいと考える人はまずいないはずだが、備えの中には一朝一夕で片付かない足の長いタスクも含まれている。そのうちの最も大きなものの一つが、経済産業省が2018年に発行した「DXレポート」で指摘した「2025年の崖」ではないだろうか。このコラムのタイトルより5年も手前に崖があるのだから、悠長に構えている暇はない。

 筆者の勤務する会社では、2000年を境に新規構築する業務システムはほぼすべてオープン系WEB型システムになっている。しかし1980年代に構築されたホスト系のCOBOLで書かれたシステムは数にして100 以上、COBOL行数にして約5000万ステップもの資産を抱えており、今も立派に現役で企業の基幹を支えている。むろん、放置してきたわけではない。

 それらのシステム群を①付加価値を付けた再構築、②単純コンバージョン/リライト、③廃止、④塩漬けの四象限に分類し、経営に対しては年次の戦略議論の際に「崖の脅威とそれを越える難しさ・重要性」を説いてきた。加えて会社としてのIT投資の優先順位の考え方を時限立法ではあるが変更し、25年の崖を越えるための投資に優先配分ができるようなスキームも導入してきた。

 その甲斐もあり、すでに①に属するシステムのトップ3を再構築するプロジェクトがキックオフされ、幾つかはすでにカットオーバーを迎えることができた。②の単純コンバージョン/リライトは資産規模が大きく、一旦開始すると方向転換が難しくなる。現在、その手法やツールを慎重に検討中である。COBOLに限らず、たとえJavaで書かれたシステムでも築後20年も経過すると崖を越えるための阻害要因になりかねない。まさにいたちごっこの毎日である。

 さて、DXの話題について2025年の崖の話から入ったが、2020年12月に発行された「DXレポート2(中間取りまとめ)」でも繰り返し訴えられているように、「DX=レガシーシステムの刷新」ではないことは論を要しない。そこで、DXそのものの進展・準備の度合いはどうなっているのかに目を転じてみたい。

 IPA(独立行政法人 情報処理推進機構)が2020年10月時点で500社のDX推進指標の自己診断結果をまとめた結果によれば、残念ながら90%以上の企業が未着手もしくは散発的な実施にとどまっている。この数字の元となる「DX推進指標」の設問を見ると、「DX推進のための経営のあり方・仕組み」と「DXを実現するうえで基盤となるITシステムの構築」の大きく二つに分かれている。

 各設問に対し、①未着手、②一部での散発的実施、③一部での戦略的実施、④全社戦略に基づく部門横断的推進、⑤全社戦略に基づく持続的実施、⑥グローバル市場におけるデジタル企業、という6段階で成熟度を評価する。経営トップがどれだけの危機感をもって臨むかに大きく依存しているが、それなりの歴史や規模のある企業にとっては③と④の間にある「全社戦略に基づく」かどうかが大きなハードルとなって、点数が高くなりにくくなっている可能性が考えられなくもない。

 DXの成熟度を(A)デジタイゼーション⇒(B)デジタライゼーション⇒(C)デジタルトランスフォーメーション という側面から捉える見方もあるが、ここ1年のコロナ禍により(A)や(B)は企業の歴史や規模に関係なく大きく進展した(させられた)。(A)や(B)は物理的変化であるのに対し、(C)は企業文化の変革であるから、トントンとそのまま(C)の段階へと移行していくわけではないのは勿論である。それでも(C)へ向かっていかなければならないという必然性や重要性を、官民双方で気づかされる機会にはなっていると思う。“転んでもただでは起きぬ”精神で、コロナ禍による環境変化をバネにすべきではないか。

 最後に、当社の担当役員からピーター・ディアマンディス氏の著作「2030年:すべてが「加速」する世界に備えよ」を勧められた。テクノロジーとビジネス視点で、今後10年の間に何が可能になるかをわかりやすく書いた本だそうである。まさに本稿を執筆する前に読むべき本であるが、時間の制約から筆者は読まずに、ご紹介だけして終わりにしたいと思う。皆様は2030年をどう読み、それに向けてどのような準備をされているだろうか。

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