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今さら聞けないクラウドの本質と活用のポイント

更新: 2021年11月1日

 「クラウドとは何か?」と聞かれて「サーバーをレンタルするようなもので、従来のハードウェアに代わる単なるITインフラ」と回答する人がまだまだ多いのではないだろうか。実際のところ、筆者も数年前までそう思っていた。ところがその本質を見ていくと、私の認識が間違っていたと言わざるを得ないことに気づいたのである。

ユニコーン企業誕生を支えたクラウドコンピューティング

 ここ10年で、多くのスタートアップ企業が従来にないスピードでビジネスを拡大し、ユニコーンと呼ばれるデジタル企業に成長していった。背景には、クラウドの存在が不可欠であったことが窺える。クラウドの最大の特徴は、インターネットにさえ接続していれば、必要な時に、必要な場所で、必要なだけのITリソースを瞬時に調達できることである。

この特徴が、起業して間もない企業をして短期間で世界中にビジネスを展開することを可能にした。付言すると、クラウドは使用量に応じた課金モデルが基本なので、低コストで新たな施策を講じることが可能であり、例え事業が失敗した場合でもITコストは最小限で済む。このような特徴を最大限活用し、多くのチャレンジを短期間かつ低コストで継続的にグローバル規模で行うことによって、ユニコーン企業は誕生したのである。

コロナ禍で露呈した経営課題としてのIT

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大により、私たちの生活様式は激変した。このような変化がいつ起こるか予測することは不可能で、不確実性は高まるばかりである。一方で、こうした変化をいち早く捉えて迅速に対応することができれば、経営にとって千載一遇のチャンスになる。逆にこの波に乗り遅れれば、せっかくの成長の機会を失ってしまう。

例えば、コロナ禍では、オンラインでショッピングをしたり、エンターテインメントを楽しんだりする人々が増えた。動画配信サービスや宅配サービスなどでは、急激にアクセスが増加したにも関わらずITはびくともせず、大きくビジネスを成長させた企業があった。半面、急増したアクセスに対応できずシステムがダウンし、予約や販売ができなくなってしまうサイトもあった。

このようにこの大きな変化を追い風にした会社もあれば、波に乗り切れなかった企業も存在したが、その差は自社が有するITに対する「変化に対する柔軟性および俊敏性」であったと言って過言ではない。柔軟性と俊敏性を高めるためにクラウド活用は有効である。

ITにおける外部依存からの脱却 ~ITの自走化

今日、経営におけるITの重要性はますます高まっている。そこで重要になるのが、自社のITシステムを、「自社できちんとコントロールする」ことである。当たり前ではないかとご指摘を受けるかもしれないが、歴史を振り返ってみると、長引く不況の影響もあり、1990年代後半から多くの企業がITベンダーに自社システムの開発と運用を委託してきた。その結果として、「自社のITシステムを理解している人材が外部業者(ベンダー)に集中してしまっている」というケースも少なくない。

このような状況では、ビジネスサイドから「デジタルを活用してこんなことをやってみたい」という相談を受けても、そのたびにベンダーに確認しなくてはならず、スピード感を持った対応が難しい。ひどいケースになると、ベンダーに「完全にロックイン」されてしまい、いいなりにならざるを得ない事態に陥っている。

 ユニコーン企業を見てみるとまったく異なる。例外なくビジネス部門にエンジニアが在籍し、そのメンバーが「現場のアイデアや、ちょっと試したいという要求」に対してその場で対応している。つまり、ビジネス人材とIT人材が一体になって、新しいアイデアを具現化し、日々進化しているのである。そして、ここでもクラウドが重要な役割りを果たしていることに注目したい。

クラウドは、従来のITと比較すると簡便で、企業自らシステムを運用し自走していくことを容易にしているのだ。クラウドを活用するのであれば、外部ベンダーに頼るのではなく、ぜひ社内のメンバー自ら手を動かして活用することを強く推奨する。想定した以上に、簡単に使いこなせることに驚くはずだ。自社でエンジニアを育成し、「ITにおけるコントロール権」をベンダーから取り戻す局面でも、クラウドは重要な要素の一つとなる。

失敗を許容する文化。多くの実験を繰り返すことでイノベーションは起きる

クラウドの進化は今も目覚ましい。クラウドベンダーは毎年、数百もの新機能をリリースしている。その中にはブロックチェーン、IoT、AI、ARなどの技術が当然のように含まれ、最近では5Gや量子コンピューティングなど最新の技術も提供され始めている。これらの技術をどのように活用すればいいのか、正解を見つけるのは容易ではない。

唯一の成功へのアプローチは多くの実験を重ね、失敗を恐れずチャレンジし続けることである。大事なのは、その実験とチャレンジが「短期間、かつ低コスト」で実現できることであり、それを可能にしているのが、クラウドである。繰り返しになるが、クラウドは基本的に従量課金制のため大規模投資が不要であり、除却する際も不要なコストが発生しない。その上、最新の技術がインターネットに接続するだけで利用できるのである。

以上、ユニコーン企業におけるクラウドの活用方法に鑑み、クラウドの本質とその活用ポイントを探った。クラウドを単なるインフラの話と理解するのはあまりにももったいない。クラウドは、企業の俊敏性と弾力性を高め、イノベーションの推進を加速するものであると理解するのが正解であろう。 重要なのは、自社でITをコントロールしながら実験を繰り返すことであり、そのためには「自社エンジニアを育成し、自走化すること」がポイントになる。さらに大事なことは、この本質をマネジメントが理解することである。昨今、ITに造詣の深い経営者が増えているが、経営者の方々にはITリテラシーをより高めていただき、不確実な時代をチャンスととらえ、ぜひビジネスを成長させていただきたいと願う。

PwCコンサルティング合同会社
テクノロジーコンサルティング パートナー
中山 裕之