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well-being経営で”愛のあるDX”を!

更新: 2022年2月1日

皆様、本年もよろしくお願いします。今年こそ、パンデミックを終わらせて素晴らしい年にしたいですね。さて、ここから本題です。

関心高まるwell-beingとは!?

 昨年あたりから「well-being(ウェルビーイング)」という言葉をよく聞くようになった。直訳では「幸福」や「健康」だが、実際には肉体的、精神的、社会的すべてにおいて満たされた幸福な状態を言うとされる。それは、単に、お金があったり、健康であったり、南の島で気ままに過ごしているような状態でもない。well-beingの本質は「持続的により良い状態になること」だ。

 well-beingを目指すのは人に限ったことではなく、企業も同じだろう。一時的な繁栄ではなく、SDGsでもよく言われるsustainable(サステナブル)に繁栄できる会社でありたい。実際、少し前に話題になった、従業員などの健康管理を経営的な視点で考える「健康経営」の先を目指す概念として、「well-being経営」が注目されるようになってきた。社員の心身の健康だけではなく、仕事へのやる気や組織へのエンゲージメントを高めようとする経営手法のことを言う。

 社員にとって、やりがいを持って生き生きと働ける職場があり、健康で安心して働けることはまさに「幸福な状態」であり、社員の満足度や企業へのエンゲージメントの向上が期待できる。そういった職場環境を持つ企業は、学生が就職先を選ぶときにも魅力的に映り、優秀な社員が辞めていくのを防ぐことにもなる。企業がwell-beingであれば従業員もwell-beingになり、その事業は人々のwell-beingをもたらす。すなわちより良い社会にするために役立っている。そうした社会に貢献する価値をもたらす結果として、利益も出ているという状態になることだろう。

近江商人の「三方よし」に通じる

 こうしたwell-being経営の考え方は、近江商人の経営哲学である「三方よし」という考えや、日本資本主義の父とも称される渋沢栄一の考え方と軌を一にする。「売り手(企業側)よし、買い手(消費者側)よし、世間(社会的意義)よし」という、近江商人の三方よしの精神は、持続可能性の高い企業の理念の根底に引き継がれているし、企業とは公益を追求する使命や目的を持たなければならないとする「論語と算盤」に代表される渋沢栄一の考え方も、まさにこのwell-being経営ではないかと思う。

 近年では、資本主義の権化のような欧米の投資家からも雇用を優先し、取引先に気を配り、持続性のある企業こそが素晴らしいという声が上がってきている。例えば米国最大規模の経営者団体「ビジネス・ラウンドテーブル」は2019年、「これまでの株主第一主義を根本から見直すことを宣言する」という声明を出した。尊重する利害関係者の優先順位を、㈰顧客、㈪従業員、㈫取引先、㈬地域社会、㈭株主とし、なんと株主利益を5番目に位置づけたのだ。

 ちなみにビジネス・ラウンドテーブルは1997年に「株主第一主義」を宣言している。22年を経て同じ経営者団体が「脱・株主至上主義」に転じたわけで、株主資本主義や米国型経営が、大きな転換点を迎えていることを物語っている。この声明文の正式名称は、「パーパス・オブ・ア・コーポレーション」(企業の存在意義)といい、最近、注目を浴びるパーパス経営にもリンクしている。

 筆者はここ数年、盛んに叫ばれているDX(デジタルトランスフォーメーション)も、この「well-being経営」に資するものであるべきだと思っている。DXとは同時多発的に出現する様々なデジタル技術を前提とし、それを活用して急激な環境変化に俊敏に対応できるように企業体質やビジネスモデルを変えていく(transform)ことと考えるからである。

 2年前に今回のパンデミックが世界を襲う急激な変化を予測した人はいないのだろう。それくらい今は何がおきるかわからない、未来の予測が困難な時代である。とすれば予測できない変化に如何に素早く、そして柔軟に対応できるかが、企業の生き残りのため避けては通れない。今回のコロナ禍でも、例えば飲食業界においては、素早くネットデリバリーを採用したところは大打撃を受けなくてすんだはずだ。

DXはどんな企業にも欠かせない、ただし”愛”が大事

 一方、日本企業、特に大企業は組織の大きさも相俟って押し並べて意思決定が遅く、素早く方向転換ができない体質である。そうした企業の組織や制度、さらに重要なことは社員のマインドセットを丸ごと変えていくことが求められていると思う。ただ、むやみやたらに変化するわけではなく、環境がどう変化しようが、自分たちの望ましい方向に変わりたいものだ。

 経営思想家のピーター・ドラッカーが指摘したように、未来が予測できないのであれば、ありたい未来を自ら作っていけばいい。自分たちのビジネスとしての、そして社会に貢献し、社員も幸せにできる企業のありたい姿を描き、それを社員全体で共有し、そこに如何に近づけていくか、それに向けて変化するというのが本来のDXの推進であると思うのだ。

 そしてそのありたい姿の必須条件の一つがwell-beingな企業であり、人々をwell-beingにするビジネスではないだろうか。well-beingな状態を如何に描かくか、それがパーパス経営の本質であり、そのTo-beの絵からバックキャストして一歩ずつ、結果的にデジタル技術を活用しながら近づけていくということがDXの本質であるだろう。

 いささか情緒的な表現で恐縮だが、筆者はそんなwell-beingを目指したDXのことを”愛のあるDX”と呼びたい。そんな愛のあるDXを推進して、多くの企業がwell-beingな状態になって欲しい。その過程でwell-beingな人びとが増え、well-beingな社会となっていくはずだ。ビジネスや経済は人びとを幸せにするものでなくてはならない。ぜひ、これからは愛のあるDXを推進して欲しいと思う。

TERRANET代表 
寺嶋 一郎