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「Hyper Scaler」と自ら名乗るIT企業に衝撃を受けた!

更新: 2022年9月1日

 コロナ禍で約2年半の中断を余儀なくされていた海外出張を再開し、7月下旬の10日間、米国に出張しました。目的のひとつが、米国小売企業におけるデータ活用に関してのアウェアネスを求めてのデータ活用基盤を提供しているIT企業との情報交換でした。お会いした諸々IT企業の方々の中、異色だったのがMeta(旧Facebook)との話でした。

 今、世界的に大きなトレンドとなっているのが、米国の3大パブリッククラウドサービス、すなわちAWS、Azure、GCPの活用です。日本でも”クラウドファースト”というかけ声の中で、それを考えるのが優先事項の1つになっています。ところが、そんなトレンドにあっても米国のBtoC企業の大手は違います。莫大なコンピュータ資源を使って大規模なコンシューマ向けサービスを提供しているにもかかわらず、そもそもパブリッククラウドに依存していないのです。

 自ら100万台規模のサーバーリソースを保有する企業はHyper Scalerと呼ばれます。そのような企業はいったい、どんなコンピューティング、データ活用基盤を保有・運営しているのか。それを知るのが出張の目的であり、Metaは話を伺うことができた1社です。お会いしたのはMetaのコンピューティング基盤で使われる独自サーバーのエンジニアリングのリーダーでした。

 ざっくりとした数字ですが、Metaにはコンピューティング基盤のエンジニアリングとサポートに携わるエンジニアが約1万人いるそうです。一方、サービスの上屋側、つまり本丸である利用者向けサービスのアプリケーション開発はどうでしょう。Facebook、Instagram、WhatsAppの開発やメンテ、サポート、R&Dに所属しているのは、これもザクっとですが、1万人とのことです。つまり全エンジニアの半分がコンピューティング基盤に携わっている計算です。これだけの人員を1社で雇用し、自社のBtoCサービス提供を支えているのです。

 お聞きした中で特徴的な事柄の1つは、独自のサーバーを企画して設計開発に踏み込んでいることでした。その内容の一部としては、
・サーバーのハードは台湾企業へのODM(設計・生産委託)型での調達
・サーバーファームウェアは自社開発(性能要件で優れている仕組みをもつために必要)
・サーバーのOSやストレージ、ネットワークをハイパフォーマンス化
を行うということです。

 そのためにFacebookが発起人となって、2011年に「OCP(Open Compute Project)」を立ち上げ、現在も活発に活動しています。出来合いのハードに満足するのではなく、ユーザー企業にとってより有用なサーバーを企画・開発する目的です。ソフトウェアのオープンソースに範をとり、ハードウェアをオープンコラボレーションで設計・開発します。

 なぜそこまでするのでしょう。MetaのサービスであるFacebook、Instagram、WhatsApp、Messengerのどれか1つでも使っているユーザーは2022年前半時点で月間アクティブユーザー(MAU)数が40億人に達しています。世界人口の半分を超えますし、万一の際の影響も計り知れません。これだけでも、”これはAWS、Azure、GCP依存ではありえない世界だ!”と、直観的にも分かります。

 後日、MAUをサービス毎に調べると、Facebook29億人、Instagram10億人、WhatsApp20億人でした。次に多いサービスであるバイトダンスのTikTok、テンセントのWechatがいずれも10億人なので、Metaは圧倒的に大きなユーザー数を持つサービス提供者ということになります。

 そして今後、Metaは、メタバースの世界に突入します。今はまだわずかなメタバースの展開にすぎませんが、それぞれのサービス利用者に対してメタバースを提供していく予定です。そこで「Metaのユーザー規模に対して、順調にメタバースが普及したらどうなる?」と質問しました。答は「ざっと現在の1000倍のコンピューティングパワーが必要になると見ている」でした。

 しかし1000倍のサーバーが必要というわけではありません。コンピューティングパワーを拡張していくに際しては、
・ハードウエアは10倍速くする(10Xの要望・可能性)
・ファームウェア、ミドルウェアなどソフトウエア側は100倍の伸長
という話でした。筆者にとっては聞いて驚きの、ソフトウエア側の役割の大きさでした。

 いかがでしょうか?このコラムの読者なら「自分には関係ない話だ」と思う方はいらっしゃらないでしょう。“Hyper Scaler”と自ら名乗る企業の存在、OCPのような戦略的な発想に、筆者は衝撃を受けました。その底流にある、長期スパンでストーリーを考え、バックキャストでやるべきことを認識して、すみやかに着手する、という文化や思考特性もそうです。この思考からは学ばなければ、と思った次第でした。

西川 晋二
Executive Advisor
トライアルホールディングス