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日本のDXに求められること➖パーパスと挑戦を!

更新: 2023年2月1日

 2023年が始まり、すでにひと月。この一年が皆さんにとって良い年となることを祈念します。

 さて、この数年DXが叫ばれ、多くの企業がDXに取り組んでいます。デジタル時代とも呼ばれる現在は、新たなITやデジタルテクノロジが同時多発的に出現し、社会を支える仕組みがどんどん変わっています。20年ほど前と現在では、買い物も何かの予約も他社とのコミュニケーションも、一変したと言っていいでしょう。スマホやネットのない世界は考えられないのではないでしょうか。どこでもネットが繋がり、どんなことでもググることで必要な情報を一瞬にして手にすることができます。

 それに輪をかけたのがコロナ禍でしょう。オンライン会議やリモートワークの実用性が広く認識され、ZoomやTeamsなどのツールは今や、完全に市民権を得ました。そればかりか、常にネットに繋がっているオンラインの世界の中に時折リアルがあるという、「アフターデジタル」と呼ばれる世界に突入したとも言われます。

 筆者は、現役時代に工業化住宅に関わるシステムの仕事をしていました。当時、営業担当者は施主と打ち合わせて施工日程を決めていました。会社のリソースを考慮しながら調整するのですが、施主にとってそれはどうでもよく、大安吉日など、できるだけ日柄の良い日に棟上げしたいと考えます。この調整は結構やっかいで、何とかシステム化できないかと模索したのですが、なかなか良い仕組みはできませんでした。今のようにネットとスマホがあれば、電車の予約システムのような仕組みをすぐに作れたはずです。

 これは単純な例ですが、どこでもいつでもネットに繋がる端末の出現は、今まで出来なかったことを可能にしました。多くのマッチングサービスやシェアドサービスなどが生まれ、新しいワークスタイルがこうしたデジタル技術で生まれました。以前は考えることさえできなかったシステム化が、新しい技術で可能となったのです。

 出来なかったことを可能にするデジタル技術は、多くの企業に変革を迫ります。デジタルはまったく違う業界やスタートアップからの参入の障壁を下げてしまい、ボーッとしているとGAFAなどの巨大ネット企業はもちろん、スタートアップ企業が自分たちのマーケットに参入し、あっという間に市場を奪われるかもしれないのです。いわゆるデジタル・ディスラプションへの対応であり、だからこそのDXです。

 でも、考えてみてください。デジタル・ディスラプションされるという恐怖心からDXを推進するのではなく、デジタル技術を活用して以前はできなかった素晴らしい価値を顧客に提供できると考えたほうがワクワクしませんか。ディスラプションされないように効率化や生産性向上を成し遂げるのは大事ですが、それは守りに過ぎません。

 DXの本筋はそうではなく、顧客や社会に新たな価値を提供できるよう攻めの体質になるべく、企業をトランスフォーム(形質転換)することにあります。今の日本で、本来の意味でのDXを推進できている企業がまだまだ少ないのは、こうした新たな素晴らしい価値を顧客に提供するという、やるべきことが描けてないからではないでしょうか。デジタル時代をチャンスと捉えて、これまで諦めていた、あるいは実現できなかった商品やサービスを創造していきたいものです。

 そうは言っても、価値のある新たなビジネスなんて、そう簡単には見つかりません。だからこそ最近よく耳にするパーパス(Purpose)、すなわち何のために自社は存在するのかという理念を本気で徹底的に突き詰め、掲げることが大切です。10年、いや20年先のワクワクするような企業のありたい姿を描くのです。本気で突き詰めたパーパスなら、社員をはじめステークホルダーの腑に落ちます。

 腑に落ちれば既存のやり方との乖離に気づくことができ、あたらなやり方やビジネスのアイデアを思いつく情熱のある社員が出てきます。そうした社員の挑戦を会社は支援し、失敗を許容するどころか促して、次なる挑戦を加速させます。そうすればたくさんの挑戦の中から成功するものが表れます。中には1から10、10から100に成長するものが出てくるでしょう。

 このプロセスで大事なことは、共有するパーパスが共通善に基づいたものであるということだと思います。その企業がどう社会に役立とうとしているのか、人びとを幸せにできるのかということこそが、社員の共感を呼ぶわけです。実はこれは、昔から日本で大事にされてきた「三方良し」という商売の精神そのものです。それが1990年以降のバブル崩壊後に生じたリスク回避意識の浸透や西欧の金融資本主義の考え方などに染まり、おかしくなってきただけなのです。元の本来の姿に戻ればいいのです。

 今後、デジタル時代が深化すれば、スクラップアンドビルドの時代になります。これまでの西欧型の金銭欲まみれビジネスはスクラップとなり崩壊していくでしょう。そうした混乱は同時に、「調和」や「共生」という考え方を大事にする日本にとってはチャンスでもあります。

 「今だけ、金だけ、自分だけ」という刹那的な考えではなく、長期的な視野と社会貢献と利益の両立、そして利他の精神を持つビジネスを作れるはずです。そして新たに生まれ変わった日本の企業群が、世界に見本を見せるべく大きく羽ばたいて欲しいーーこれこそが日本のDXに求められることではないかと思うからです。

TERRANET 代表
寺嶋 一郎