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DXは進化してGXへ

更新: 2023年4月1日

 温室効果ガス(グリーンハウスガス:GHG)の削減、すなわちカーボンニュートラルの実現に向け、社会が大きく動いている。そのためのに社会システムや産業構造を変革させて成長につなげる取り組みを、GX(Green Transformation)と称しているのは、ご存じの通りだ。地球温暖化をくい止め、気候変動を平穏にするための大意は理解するも、ヨーロッパの覇権、経済成長の方策であることも見て取れる。

 米国がどこまでGHG削減に本気なのか、中国はやる気があるのか、開発途上国はどうするのかなど疑問は残るが、世界中で頻発する異常気象や自然災害や世界人口は100億人に近づくことを考えると急務だ。もちろん日本にとってもGXは必須の課題であり、カーボンニュートラルの実現に向けた貢献が問われる。

 GXは、決してイノベーションの実現だけを目指すものではない。入口には熱エネルギーや電気エネルギーの効率化、いわゆる省エネがまず先にある。その上で製品を作るエネルギーや社会を動かすエネルギーの脱化石燃料を推進し、迅速にカーボンフットプリントを開示していく。

 ちなみにカーボンフットプリントは、GHCの排出量をCO2に換算して、商品やサービスに分かりやすく表示する仕組みのこと。その範囲は広い。製造業を例にすると、原料メーカーが使用したエネルギーや製造および物流で消費されるエネルギー、工場で働く従業員の通勤時のエネルギーまで、すべての内訳を識別し合算する必要がある。製品ライフサイクル全体を通して排出されるGHCが対象になる。

 筆者は、世界で一番GXを行うポテンシャルのある国は日本だと思う。資源国ではない日本の企業は、省エネの戦略を精密に練り、コストと使用するエネルギーミックスを的確に行うことで低コストで高品質な製品を作ってきた歴史があるからだ。今、日本のものづくりの高品質志向、大量生産システム、またカイゼンの手法は色褪せているように捉えられ、論じられている。しかしGXのテーマが明らかになり、羅列したときには、かつての日本の強みが活きる時がくるに違いない。

 もっとも過去のやり方を再現したのでは心もとないし、何よりも再現は困難。ポイントになるのはデジタルの注入だ。もはやエネルギープロダクトミックスの最適化などは経験と勘ではなく、デジタルツインで行うことを考えなければならない。製品を構成する原料や間接的に使用されるエネルギーの仕訳や合算、さらに迅速な開示には、サイバーフィジカルシステムの活用が必須となるだろう。こう考えてみると、実はGXは、ものづくりとデジタルをGHG削減をテーマとして結び付けることに他ならない。

 ところで今、DXはバズワード(もっともらしいが実際には意味があいまいな言葉)的に使われている。本来のDXはビジネスのイノベーションをデジタルと組み合わせて行うことだった。進め方はアジャイルで、失敗を繰り返しながらも、より高次元の新たなビジネスやそのプラットフォームを作る、あるいはこれを日常的に行う企業文化や風土を形成するのがゴールだったと思う。

 それが今日では、効率化や働き方改革に取り組むこともDXと呼ばれる。単なるデジタル化でも何でも、DXと称して進めることに異存はない。失敗を恐れずにチャレンジするDXを望むところではあるが、しかし、正直なところ日本ではビジネス革新までたどり着くDXは見出しにくい。日本の真摯、謙虚、突出せずに中庸をとる信条からすると、容易ではないようにも思うのだ。

 そこでGXである。GXはテーマとゴールを明確にし、ウオーターフォールでがっちりと進めればよい。日本企業にとっては手慣れたものだろうし、必然的に日本企業が得意技を生かし、グローバルに誇れる成果を生み出せる可能性が高まる。日本でGXを梃にものづくりとデジタルが真に融合し、結合する姿を見たいものだ。それが日本流のDXかも知れないし、その時には、日本経済は再成長の道筋に乗っているはずである。

三菱マテリアル株式会社取締役(社外)
サステナビリティ委員会委員長
五十嵐 弘司