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DXの中で進まない「トランスフォーメーション」を考える

更新: 2024年1月1日

 ”DX周回遅れ”などと言われている日本は、どうやって挽回すればよいのだろうか?特に問題なのはDXのXである。例えばIPA(情報処理推進機構)の「DX白書2023」のサブタイトルは、「進み始めた『デジタル』、進まない『トランスフォーメーション』」なのだ。なぜ「トランスフォーメーション」が進まないのか、どうすれば進むのか、筆者なりに考えてみた。

 まずは状況を確認してみよう。失われた30年の間に、世界の企業時価総額ランキングから日本企業は姿を消した。アメリカのテック企業が席巻し、年間生産台数120万台のテスラの時価総額は同1000万台のトヨタの4倍以上となっている。おまけに“進み始めた「デジタル」”で日本が使うお金は海外に流れ、日本のデジタル赤字は4.7兆円(2022年)に達する。2023年はもっと増ているだろう。

 そんな日本企業の多くは「3大疾病を患っている」と言われる。経営学者の野中郁次郎氏が指摘したもので、①過剰分析 ②過剰計画 ③過剰コンプライアンス の3つの疾病である。企業の主力であるはずのミドル層が経営層から来るこれらへの対応を捌くのに精一杯で疲弊してしまい、新しい価値創造や顧客価値向上に取り組む余裕がないという。筆者も企業勤めを経験した中で大いに同感する。

 つまり徹底的に分析して間違いない計画を緻密に作り上げ、法令・労務・ハラスメント・安全・防災・品質・環境・差別や児童労働問題がないかなど、多岐にわたる整合性を確認しないとコトを進められないーーそんな心(マインド)の疾病に罹患してしまっているのだ。

 そうなると、どうしても今までの延長線上で種々確認済みで、確実に成果を出せる行動になってしまう。DXのテーマもコストや品質改善、生産性改善などの内向きな活動になり、デジタル化は進めてもトランスフォーメーションには至らない。米国など海外企業が新事業創造や顧客体験の向上、事業モデルの改革など、価値創造に重きを置いているのとは、大きな違いである。話題の生成AIの使い方でも同じ傾向だ。

 では、どうやって3大疾病を治療して、価値創造につながるトランスフォーメーションを起こせばよいのだろうか?よく指摘されるのは「完璧主義を止める」、「外部人材に入れ替える」、「別動隊を追加する」などだが、どれもこれも疑問符がつく。

 皆さんは、SHEIN(シーイン)という会社/ブランドを知っていますか?中国のファストファッションブランドで、世界中のSNS画像などを収集し、AIで流行や売れ筋のデザインを生成し、毎日6000点の新商品を出していると言われます。急成長しており、遠からずアパレルで売上世界一になるとも報道されています。

 そのスピード感はあっぱれであり、アジャイル経営を地でいっている。半面、世界中で知的財産侵害などの裁判を数多く起こされているが、これもAIで採算を計算済みなのかも知れない。つまりリスクを取って、顧客の支持を獲得しながら成長を目指しているということだろう。

 こうした例を見るにつけ、日本企業もいまこそリスクを取る覚悟を決めて、市場に挑戦していく必要があると強く思う。経営層、マネージャー、一般社員のそれぞれが各々の持ち場・立場で相応のリスクを許容し、挑戦をする。それを可能にする環境作りと風土改革こそが3大疾病の治療方法ではないだろうか。となれば治療にあたる医者はリーダーシップを取る経営陣に他ならない。

 なぜならリスクを許容するには、企業の存在意義は何か、誰にどのような価値を提供するのか、そのために経営は、部門は、課は、従業員各々は、日々何をすれば良いかを見つめ直す必要があるからだ。元々、同じ目的に向かって突き進むのは得意な日本企業である。目的が外向き、改革に向けば、再び世界を席巻する日が来るでしょう!

 最後にお知らせです。2023年にビジネスエンターテイメント小説「店長はCDO」(NextPublishing Authors Press)を上梓しました。会社員の方々に勇気をもたらし、トランスフォーメーションを進める人が1人でも多く出てきてくれたらと思い、筆者の経験を元にリスクをとる様を書いています。手に取っていただけると幸いです。

クールスプリングス株式会社
代表
三枝 幸夫