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”PoC倒れ”から脱却せよーー「アオムシは蝶になるのか」の提案

更新: 2024年4月1日

 大きな変革を起こす前にまずはPoC(Proof of Concept:概念検証)を行うーー。これは多くの企業で定着しつつあるスタイルだと思います。IoTやAIのような新技術や新しい機能やサービスなどを、いきなり本番業務に導入して失敗すると目も当てられませんから当然でしょう。一方で「PoCの成果を元にして本番に移行する判断がなかなかできない」、「PoCは数多くやっているが、そこから先に進まない」といった声を聞くことも少なくありません。よく言われる”PoC倒れ”というものです。

 いくつものPoCを実施したり繰り返したりしながらも実践的な成果につながらないことが続くと、最初は寛容だった関係者やトップの声は厳しくなってきます。PoCを実施している当事者も”PoC疲れ”とか”PoC止まり”などと言われる状況になり、チャレンジするエンジンの動きが悪くなるなんていうことを耳にします。心身ともにつかれてしまうのですね。変革を応援する立場としては何とかしなくてはいけないと思います。

 そこで1つ、提案があります。小生はITやデジタル変革の壁を下げるために虫を題材にしたワークショップを多く手掛けてきました。例えば、石の下に隠れるダンゴムシを「見えていないけれど存在には気づいている課題」になぞらえ、課題発掘をする『ダンゴムシを助けよう』というものがあります。情報収集のミツバチと情報提供のミツバチをカスタマージャーニーの花畑に放ってサービスを考える『二匹のみつばち』というワークショップもあります。

 単に「課題を発見しよう」というワークショップでは見えている課題や見えやすい課題に終始しがちです。あるいは単に「サービスを考えよう」だと、何から着手したり検討したりすればいいのか分かりにくい問題があります。虫を題材にすることで、このような問題を乗り越えられるのです。「そんなことで効果あるの?」と思う人もいるでしょうけれど、小生の実践経験から確実に効果があると言い切れます。

 さてPoCです。PoC倒れに陥るのは、「小さなアオムシが大きくはなったがまだ蝶には成れていない状態」ではないかと考え、新しいワークショップを作ってみました。基本的な考えはPoCから実践段階に行くのに足りない要素を現場の知見で埋めようというものです。体は少し大きくなったが蝶になれるかどうかが心配なアオムシが、ある村の賢者たちに出会います。賢者たちは以下の5つの視点でアオムシに知恵を授けます。

① 実際のお客様の視点
② 現場環境の視点
③ 想定しないといけないケース
④ 現場の強みを活かす視点
⑤ 注意しなければならないこと

 現場の方々を賢者と位置づけて集まっていただき、敬意を払うことからワークショップは始まります。仮に現場観察から始まったPoCでも最後の段階では現場への敬意を忘れてしまいがちだからです。賢者によってPoCでは想定できなかったケースへの対応、受け入れる現場の不安の払拭などの知恵がワークショップを通じて明らかになり、アオムシへのアドバイスという形で整理されていくのです。

 小生は実際の案件でこのワークショップを実施したのですが、思った以上にアドバイスが集まり、その後の導入がスムーズになりました。読者の方はすでにお気づきだと思います。PoCから実践段階に行けなかったのは現場の知恵の取り込みが不足していたのです。お客様が中心のデザインであっても、それを支える現場のインサイトを取り込まなければよいデザインにはならないと思います。読者の皆さんのアオムシが蝶になることを祈ります。

J.フロント リテイリング株式会社
デジタル戦略統括部 グループシステム推進部長
兼 チーフデジタルデザイナー
執行役
野村 泰一