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”情シス子会社問題”への処方箋を考える

更新: 2024年6月1日

エンタープライズITにおける組織課題の大きな比重を占める問題、それが情報システム(以下情シス)子会社の存在です。優秀なところもありますが、筆者の知る限り、事業運営や存在価値において問題を抱える情シス子会社が多くを占めるように思います。情シス子会社がなぜ生まれ、問題点が何で、問題解決にはどうすれば良いかについて私見を述べます。

情シス子会社のパターン

①コストダウン型
最も多い情シス子会社のパターンがこれです。事業会社は金を生む事業こそが主軸であって、そうではないバックオフィス業務は外部サービス化されていきます。その第一歩が子会社化。給与水準や待遇が本社よりも低下します。その後、多くの会社が次の②に移行していきます。

②ベンダー売却型
(親会社の経営者から見て)付加価値を生まず、専門能力もそれほどない情シス子会社は、次のステップへ進みます。例えば大手ITベンダーへの売却です。多くの場合、合弁会社という形を取り、10年ほどITベンダーにフルロックインされるような独占的契約を結びます。同じ人たちが同じ様な仕事を続けますが、立場は外部ベンダーに変わるのです。ここからITベンダーらしく、自社のソリューションを外販できる様な③の会社に進化できれば良いのですが、多くはそうはなりません。

③ソリューション外販型
元々は社内用に開発したシステムをパッケージ化して外販し、事業会社化するパターンです。製品が良いと外販比率が高まり、情シス子会社というよりもIT事業会社に変身していきます。外販比率が8割ぐらいになると、経済的にも精神的にも親離れしていきます。それに伴い、親会社の事業部門からは不平不満が増大します。他社の案件で忙しく、自社の案件が疎かになっている、と。親会社との関係もビジネスライクに変化して行き、親会社としても身内感が薄れて、外部ベンダーの1社として見るようになり、改めて内部に開発部門を持った情シス部門を持ちたいと思うようになります。

④エンジニアファースト型
大手銀行などが作るFin-Tech系スタートアップに多いパターンです。本社の人事評価制度などにとらわれずにデータサイエンティストやAIの専門家を厚待遇で採用するなど、優秀なエンジニアを確保するために別会社を作るわけです。エンジニアファーストで作られる子会社であり、エンジニアはプロフェッショナルとしてのアウトプットが求められ、それに応えられる人のみが生きて行ける世界です。筆者はこのパターンは積極的に評価しています。

情シス子会社の問題点①従業員のモチベーションの方向感と組織KPI

 ①や②の情シス子会社にはどんな問題があるでしょうか?一つは親会社とのKPIの不一致です。情シス子会社は売上と利益が主要なKPIになります。そのKPIが、事業会社の親会社と一致しないことで様々な不都合が起こります。例えばムダなシステムでも作れば情シス子会社の売上成績は上がりますから、子会社のエンジニアは「こんなシステム化、やめた方がいいですよ」が言いにくくなります。親会社から来たシステム案件の妥当性を、システムのプロとして議論する場面が減少します。システムの運用費用も同じで、下げると子会社の売上と利益が減少します。

情シス子会社の問題点②DXの停滞

 DX(デジタルトランスフォーメーション)の実践は、社内業務プロセスのシステム化とは次元が異なります。自社のプロダクトやサービスのデジタル化の実践を、トライアンドエラーを繰り返しながら、高速にプロダクト開発して行く組織が求められます。何を頼むのにも「システム開発要請書」のような書類を書かなければならない、PoCを行うために社内で「見積書」が行き来するような組織運営からイノベーションは生まれません。

対処法①子会社の清算と本体回帰

 パターン①の様に親会社との取引が100%の子会社で、コスト削減の為に作られた子会社は、いますぐ清算して本体と一体運営すべきです。事業部門と一体となってDXを推進する部門を新たにつくる必要があります。スキルがなくて全員がそこに入れない、といった話は後回しにします。組織とポジションとジョブディスクリプションから先に入りましょう。この人たちに何をさせるか、から議論を始めると何も進まない。そのジョブをこなすには、どのようなスキルが必要か分かれば、内部で徹底的に教育するか、外から調達して時間を節約するかの選択肢しかないことが分かり、行動に移れます。

対処法②子会社の徹底したベンダー化と新たなDX推進体制づくり

 ③のパターンで既に外販比率が高い情シス子会社や、何らかの理由で本体への取り込みが出来ない子会社の場合は、徹底的にベンダー扱いすべきです。その上で自社に新たなDX推進部門を作り、情シス子会社からタレントを異動すべきです。パターン②のロックインされている会社は、事業部門の中に自らがDXを推進する部門を作るしかありません。

 DXを推進させるために内製化は必須です。失われた30年の間に構築された「情シスをコストとみなす組織構造」を今すぐ見直し、事業戦略をデジタルで実現する組織作りを始めましょう。

フジテック株式会社
デジタルイノベーション本部長
友岡 賢二