オピニオン
ベトナム再訪にまつわる話あれこれ
更新: 2024年8月1日
筆者は昨年、ベトナム最大のIT会社であるFPTソフトウェアの開発拠点を訪問した。同社の本社はハノイにあるが開発拠点はダナンにあり、そこだけで1万人もの技術者がいる。実際に見学して話を聞き、その規模もさることながら人材育成の仕組み、施設や福利厚生、それに社内教育の充実ぶりには驚かされた。ステップアップやキャリアップのための転職が多いベトナムでも、同社は「離職率が低い」とのことだが、それも納得だった。
国策と勤勉なベトナム人気質が相まって価格と品質のバランスに優れるベトナム企業を、アジアのオフショア開発先として選ぶ日本企業が増えている。FPTソフトウェアに限らず、日本に進出するベトナム企業も増えている。多くはハノイに本社を持ち、ダナンやホーチミンにも拠点を置いている。
FTPソフトウェア以外のIT企業も見たいーー。根っからの好奇心・探究心から、この6月、FPTに次ぐ規模、つまりベトナム第2位のCMCグローバルという会社を訪問してきた。幹部クラスはFPTソフトウェア出身者が多く、キャリアアップと独立心の強さが伺える。ベトナム国内の企業に対してもDX支援策が制度化されていて、協力するIT会社への免税措置などは日本でも政策的に取り入れたい仕組みである。
LinkedInでCMC訪問を察知、筆者に連絡する企業も
CMCグローバルの報告は別の機会にするとして、ベトナム訪問時にLinkedInを通じてアプローチのあった会社(の人)に言及したい。HBLAB(エイチビーラボ)という、ベトナムオフショア開発会社の日本法人だ。LinkedInから筆者のCMC訪問を察知したようで、聞くとCMCからの転職者だった。CMC訪問などから帰国した後、HBLAB日本法人を訪問し、事業内容やオフショア事情などをヒアリングしてきた。
HBLABは2015年設立と社歴はまだ浅く、社員は540人と小規模である。ビジネスのターゲットを日本に絞っていて、社員の8割は日本向けに活動しているという。日本法人の社員は営業と一部の管理職を除くと、クライアント会社に常駐している技術者とのことだ。
ホーチミンにいる時にアプローチしてきた同社のジャンさんとホアイさんは日本法人所属の営業担当で、2人とも若手の女性である(写真1)。FPTもCMCもそうだったが、女性営業の活躍が目覚ましいようだ。若手といっても前職があり、前述のように2人ともCMCから転職者したという。
理由を訊くと、ベトナムでも会社組織は階層化されていて上位職に就くには時間がかかる。規模は小さくても、早くポジションと権限を得て経験を積みたいからだという。キャリアアップのための転職を厭わず、向上心が高い。加えてLinkedInで見ただけの筆者のCMC訪問をきっかけに連絡をとり、間を置かずに話をするーー。その意欲と行動力には、見習いたいものがある。
オフショア開発の課題はコミュニケーションと品質の担保だと言えよう。HBLABもその認識は強く持っていて、少なくとも営業やPMの日本語能力、英語能力は高く、品質管理にも力を入れているのがわかる。丸投げではなく協働・共走型でシステム開発できる事業会社なら、このくらいの規模のオフショア会社が面白いのではないかと思う。
人材育成がベトナムのITビジネス隆盛に繋がる
オフショア開発.comが毎年インターネット調査によって発行している「オフショア開発白書2023」によれば、オフショア開発先のトップはベトナムで、48%にのぼる(図1)。最近、バングラディッシュも注目を集めていて、先進企業は活用を始めているようだが、現時点ではベトナムが圧倒的なシェアを持っている。
背景には、人材育成がある。ハノイ工科大学をはじめとして、多くの大学や教育機関やITベンダー社内で密度の濃い教育が行われ、優秀な人材を大量に輩出している。加えて平均年齢が若く、向上心が高いメンタリティはベトナムのITビジネス隆盛に繋がっているようだ。
話は変わるが、ベトナム訪問時に同行した仲間になかなか体験できないエピソードがあった。日本を発つ当日に、パスポートの残存有効期間が半年以上残っていないことに気づいたのだ。米国やオーストラリアなどでは問われないが、欧州は3ヵ月以上、アジアの多くの国では6ヵ月以上の期間が求められる。
有効期間のあるパスポートがビザ免除の条件だから、日本を出国できても入国が認められない。残存期間が満たないパスポートの場合は、別途、観光ビザを申請して取得する必要がある。出発は深夜便だったが、気付いたのが15~6時間前なので渡航を諦めるしかない。チケットや予約した宿泊費も無駄になる。
ところがネットで裏技が見つかった。観光ビザの申請を代行する行政書士会社があり、なんと最短5時間で申請取得するという。ネットと電話でやり取りし、観光ビザを手に入れることができた。結果、残存期間の不足するパスポートとビザに加えて、到着ビザ料金の25米ドルを支払うことで無事入国できた。筆者はこんなサービスの存在を知ることができたし、仲間も入国できたので良かったが、代償もある。ホーチミン2往復分の航空券代に相当する手数料を要したのだ。
CIO賢人倶楽部 会長
木内 里美