オピニオン
デジタル化の光と影、高齢者を置き去りにしてはいけない
更新: 2024年10月1日
筆者は現在、長年お世話になった会社のOB・OG会の運営に従事している。60歳から100歳超までの数1000名の会員がおり、会員同士のコミュニケーションや親睦のお手伝い、年間のイベントや催しの計画策定・実施が仕事である。
筆者の両親はすでに他界しており、いわゆる高齢者の日ごろの生活を見聞きすることはほとんどなかったが、そのような仕事の関係上、高齢者の色々なお悩みごとに接する機会が増えた。結構あるのが、パソコンやスマホの使い方に関するものだ。65歳になった筆者自身、現役時代の仕事がITとはいえ日進月歩のデジタル化になかなかついていけず、苦労している面もある。
前置きが長くなったが、デジタル化の進展を日なたとすると、デジタル化がもたらす影の部分が気になっている。特に現在の仕事に就いてからである。具体例を挙げると先日、同窓生と酒場に入った時、席に着くなり店員から「このQRコードを読み取って、注文して下さい」と至極簡単に言われた。初めてのことで勝手が分からず、喉の渇きを我慢しつつ10分近くを注文に要してしまった。
来店客によるスマホ所有を前提としたこの仕組みは、店にとってはタブレット不要だし、省力化、スピード化を図れる。客にとっても店員を呼ぶ必要がない便利なシステムではあるだろう。普及するのは当然だが、一方で店内を見わたすとお客のほとんどは20代から40代くらいで高齢者だけのグループはいなかった。
別の例も挙げてみよう。ご存じの通り、交通機関の利用もネットで随分と進歩している。乗車券や特急券はスマホで予約、電子決済ができ、発券なしで乗車するのも乗車前の予約変更も容易だ。ポイントもたまるので、その後の旅行などで利用できる。これらを使いこなせば利便性やお得感が格段に増している気がする。
しかし、ある時、窓口で切符の払い戻しが必要になり、仕事場近くの駅に行ってみたら、乗降者が多い駅にもかかわらず、なんと窓口が閉鎖されていた。仕方なく、窓口がある隣駅に行ったところ長い列ができていて、多くの高齢者や外国人が並んでいた。デジタルを使わない、使えない状況では不便さが増しているようだった。
似たような例は枚挙にいとまがない。店頭に出向かなくても商品一覧から生鮮食品でも特売品でもなんでも買えるネットスーパー、人気の高い医療機関で長時間の待合が避けられる開院前のネット予約、寒い中税務署に行かなくても済むe-taxによる確定申告・・・。とても便利で、スマホやパソコンさえ使いこなせれば、今以上に快適な生活ができるのではと楽しみでもある。
半面、スマホやパソコンを持たない、あるいは使いこなせない方々にとって、生活圏がどんどん不便になり、生きづらくなっていく側面も間違いなくあるだろう。「デジタル化による利便性向上」と「高齢者の生活のしづらさ」という二律背反が、克服すべき課題として現代社会に存在しているのではないかと思う。
我が国の識字率は世界でもトップクラスである。それと同じように国民全体のデジタル活用力が高まり、皆が不自由なく生活できるレベルになるまでは、いわゆるデジタル難民を置き去りにしない、支援できる社会にしていく、そのことの重要性を感じている。なぜなら高齢者の人口は多く、年代別に見た資産保有額も大きい。そのような方々に不便・不自由を感じさせて、いいことは何もないはずだからである。
元会員