オピニオン
日本のCIOはなぜ孤独?
更新: 2025年6月1日
CIOは孤独なものですよ。だからこの会を作って横の繋がりを提供しようと考えたのです--。これはCIO賢人倶楽部の木内会長と初めてお話しした際に伺った言葉です。CIOになって間もなかった私は、「やはりそういうものなのか」と素直に納得したのを覚えています。
それ以降、様々な場でIT・DX部門のリーダーを務められている方々(以下それぞれIT部門・CIOと表記します)に接する機会に恵まれ、意見交換をしてきました。その経験からCIOは「確かに孤独だ」と考えるに至りました。なぜ、そうなのでしょうか。本コラムで考察してみたいと思います。
まず先にお断りしておきますが、経営層の積極的な支援を受けてDXやデジタル活用を積極的に進められているCIOも多く存在しています。ただ中小も含めて世の中に数百万のある企業の中で割合としては極めて少数だろうと思われ、このコラムが日々努力されているCIOの参考になれば幸いです。
孤独の原因その1:日本企業におけるIT部門の立ち位置
当たり前ですが、多くの企業は何かを仕入れたり調達したりし、それに付加価値を付けて販売・提供することを事業とします。製造業なら資材や部品を調達して製品を製造する、流通・小売業は商品を仕入れて販売する、金融業は預金を調達して貸し出しする、といったことですね。そうした業務を担う営業や製造部門が、高度成長期以前も今日も企業の中核であり続けています。金融など一部の業種では人事や財務部門が中核かも知れません。
そういった部門に比べるとIT部門は歴史が浅く、また各部門のための業務システムを構築してきました。経営ではなく部門向けのシステム開発を手がけたので、必然的にIT部門が経営の意思決定に関わる機会は限られました。1990年代以前、まだIT部門が“電算室”と呼ばれていた頃の話です。全社が共通で使うPCやネットワークはまだありませんでしたから、IT担当役員を置く発想が生まれないのは当然ではあります。
1990年代以降になるとITがビジネスに欠かせないツールになる場面が増えますが、同時にITが複雑化・多様化して「餅屋は餅屋」という諺があるようにベンダー依存が一般化しました。結果、IT部門は社業に貢献しているというよりも、ベンダーからの調達を仲介・管理するコスト部門的な位置づけに留まりました。
それ以降、特にこの20年強でITやIT部門を取り巻く環境は大きく変わりましたが、残念ながらこの歴史的・文化的な背景が色濃く残っている企業がまだまだ多いように見受けられます。図1は総務省の調査結果ですが、例えばCIOやCDOが在籍する割合はわずか35.1%。ドイツが71.2%、米国は89.3%、中国は94.2%ですから、比較になりません。日本のIT部門に対する意識が今も低いことが表れています。IT・DX戦略を策定し推進する立場への理解が進んでいない企業であれば、CIOが孤独に陥ってしまうのは当然です。

孤独の原因その2:変革を推進する責任者としての立ち位置
IT部門の責任者としてCIOは一般に企業の変革・DXの責任を負いますが、本気でDXを進める際は従来の業務プロセスや文化を大きく変えることが求められます。特に保守的で縦割り意識が強めの企業で変革を推進する際には、様々な反発や不作為に直面することになります。本来、DXの旗振り役であるべきCEOやCOOなどCXOも、CIOの味方とは限りません。出身母体の部門のことを気に掛けますし、投資対効果や進め方に不安を抱えるからです。こうしてCIOは組織のリーダーとして孤独な戦いを続けることになります。それは変革を推進するためのリーダーシップと忍耐力、胆力を試されている証かもしれません。
孤独の原因その3:日本企業の経営層のITリテラシー
一般企業にとってITは事業を継続・成長させる手段の一つであり、目的にはなりません。したがって経営マネジメント層に対しITに詳しくなるよう求めるのは筋違いですが、しかし、一定水準の知識は必要です。財務や生産設備、人事制度などと同様に、投資やリスク管理を適切に判断するためです。ところがことITに関しては、必要な知識を持つ経営者は日本ではあまり多くないように思えます。
結果、CIOがIT戦略やDXの提案をする場合、基本的な言葉や考え方の説明に時間を費やすことになったり、説明しても議論にならずに「任せたから後はよろしく」となってしまう事態が生じます。このようなITリテラシーの格差の大きさが、CIOの孤独を深める一因になります。
ちなみに外資系企業では、プロ経営者として自身の専門領域だけでなく、その他の領域についても一定の知識・理解を求められる傾向があります。過去に私が一緒に仕事をさせていただいた方々は物事を適切に理解して判断しようとする姿勢が強く、IT投資だけでなくコスト構造の改善やプロジェクト管理等についてもきちんと勉強されており活発に議論させていただいた記憶があります。
以上3つ以外にも、日本企業にはCIOが孤独を感じる原因となる要素が様々あると思います。CIOは立場上、そのことを口したり部下と共有したりすることは難しく結局、孤独を甘受するしかありません。ただ、孤独の中で悲観的に仕事をしているかというと、それは違うでしょう。事実は事実として受け止め、使命感を持って企業や業界、あるいは世の中を変える可能性を信じて、日々改革を進めているCIOが多くいるのもまた現実だと思います。
そういった姿勢があれば、多少でも社内に理解者・支援者を得やすくなるでしょう。これからも企業・業界を超えてCIOのネットワークがより強くなり、”プロフェッショナルCIO“が日本の企業でも多く活躍できるようになることを期待しつつ、また私もそのお役に立てればと思うばかりです。
“本コラムの内容はすべて執筆者の個人的見解であり、執筆者が所属する組織またその関連会社の見解を示すものではありません”
株式会社ADKホールディングス
グループ執行役員 CIO
柴﨑 貴志
