オピニオン
バズワードの洪水から本質を見出すには?
更新: 2026年9月1日
ITの世界に足を踏み入れてから、気がつけば43年近くが経ちました。その間、実にさまざまな技術や概念、トレンドが現れては消えていきました。せっかくの機会ですので、少し振り返ってみたいと思います。
■ 1980年代
- オブジェクト指向
- クラサバ
- エキスパートシステム
- マルチメディア
■ 1990年代
- インターネット
- Y2K
- eビジネス
- オープンソース
■ 2000年代以降
- Web2.0
- クラウドコンピューティング
- ビッグデータ
- IoT
- DX
- 生成AI
言わずもがなですが、これらは氷山の一角です。80年代にはOAやSIS、90年代にはBPRやオフショアリング、2000年代以降にはブロックチェーンやVR/AR/MRなどもありました。皆さんは、どれくらい記憶に残っているでしょうか。
こうして並べてみると、ITの世界では本当に多くの技術や概念が絶え間なく登場し、そして消えていったことがわかります。中にはしっかり定着したものもありますが、時代のあだ花のように消えていったものも少なくありません。
こうした言葉は、しばしば「バズワード」と呼ばれます。バズワードとは、話題になって流行語のように広まる一方で、意味があいまいになりやすい言葉のことです。何かを理解した気になれる、あるいは何かを簡単に伝えられる、非常に便利な言葉ではあります。しかし、気をつけないと、言葉だけが先行して中身が見えにくくなってしまいます。
つい最近まで、猫も杓子もDXと言っていました。ところが最近では、その言葉を耳にする機会も少し落ち着いてきたように感じます。代わって生成AIが注目され、さらにその先としてAgentic AIといった言葉も登場しています。ITの世界の変化の速さに、あらためて驚かされます。
変化の激しい時代にあって、CIOやIT部門長は、自社のITの舵取りを行うために、さまざまな外部の知見を参考にします。しかし、専門メディアの記事、ビジネス書、ネット上のブログ、コンサルティングファームの資料、IT関連セミナーなど、どこを見てもバズワードの洪水です。その中から本質を見極め、自社に必要なものを選び取っていくのは、なかなか骨の折れる仕事です。
では、バズワードに振り回されず、かといって時代に取り残されることもなく、どうやって変化の波に乗っていけばよいのでしょうか。私自身は、次の2つを大切にしています。
1. 流行に引っ張られない
以前、私の上司がこんなことを言っていました。
ITベンダーやコンサルティング企業は、「このソリューションはこんなことができます。素晴らしいです。だから貴社もぜひ取り組みませんか」と勧めてきます。 でも、医者は「良い薬が手に入ったので使いませんか」とは言いませんよね。まず問診や検査をして、その症状に合わせて薬を処方する。我々もまず、自社の困りごとや課題の本質を理解したうえで、ソリューションを考えるべきだと思うのです。
私はこの言葉を、今も決して忘れていません。手段であるHowが、WhyやWhatより先に来るべきではないのです。何より先に考えるべきなのは、何に困っているのか、何を変えたいのか、ということだと思います。
2. 人のネットワークを使う
幸いなことに、ITの世界には多くのユーザーコミュニティがあります。さまざまな取り組みをしているリーダーたちがそこに集まり、自社の事例や取り組みを惜しげもなく共有しています。そこでは、生々しく、リアルな議論が交わされることもあります。そこで語られるのは、成功事例ばかりではありません。失敗事例や苦労話も数多くあります。
けれども、私はむしろ、その失敗事例や苦労話の中にこそ本質があると思っています。そうした経験に触れることで、自分たちは遠回りを避け、少しだけ先へ進むことができます。バズワードの意味や意義、さらには取り組みの要不要を見極める手がかりにもなります。
ITの世界では、これからも新しい言葉が次々と生まれるでしょう。大切なのは、言葉に振り回されることではなく、その奥にある本質を見失わないことだと思います。バズワードの洪水の中でも、静かに本質を見極めながら、着実に変革を進めていきたいものです。
日本ペイント コーポレートソリューションズ株式会社
常務執行役員 CIO
石野 普之
