cio賢人倶楽部 ご挨拶

活動内容

「どうするCIOの後継者育成」セミナー開催

テーマ:どうするCIOの後継者育成 ― 育成で人材は育つか?組織に貢献するIT部門を築くには ―

更新: 2016年1月29日

日 時:2015年9月9日(水)14時~19時30分

場 所:あずさセンタービル12階

主 旨:前回3月のCIO賢人倶楽部公開セミナーの出席者より頂いたアンケート結果において、CIOならびに情報システム部門の抱える経営課題及びIT部門の課題として『人材育成』が多かったことから、今上半期のCIO賢人倶楽部の研究テーマとして「IT部門の人材育成」を挙げて議論を行った上、今回セミナーのテーマとした。

当日は「日本型ハイブリッド経営から見た人材育成」について事業戦略とIT戦略を融合させたことでも著名な元株式会社小松製作所代表取締役社長の安崎暁氏、ならびに「情報システム部門の役割の認識と人財育成」についてCIO賢人倶楽部アドバイザーである元ノバルティスファーマ株式会社執行役員CIOの沼英明氏より講演を頂いた。

また、パネルディスカッションを通じ、CEOおよびIT部門の人材育成のポイントについて公開討論を行い、活発な議論が行われた。セミナーの参加者は102名。

 

1.スポンサーセッション

CIO賢人倶楽部 木内会長の挨拶の後、KPMGコンサルティング株式会社ディレクターの寺崎氏より「人材開発体系の構築とタレントマネジメントの実践」について講演頂いた。

<講演要旨>

【競争優位性確立に重要性を増す人材戦略】

・多くの企業において、競争優位を確立するための労働生産性向上が重要な経営課題となっている

・労働生産性向上のためには、付加価値向上のための人材投資と、投入人件費低減のための人件費管理を両立させる必要がある

・事業ポートフォリオに即した人材ポートフォリオ策定、高付加価値/低付加価値職務へのリソース最適配分の実現

【経営ビジョン・事業計画と人事マネジメント】

・現有人員と必要人員の量的ギャップ、質的ギャップを埋める施策が必要

【タレントマネジメントが求められる背景】

・人材投資を最適化する人材戦略を実現する上でボトルネックを解消するため、「戦略的タレントマネジメント」の仕組みを整備する企業が増加

・タレントマネジメントの導入により、事業計画に即した効果的な要員配置が可能に

・コア人材要件の高度化により、人材開発体系を抜本的に見直す必要性

【タレントマネジメントの設計・運用フレーム】

コアポスト特定⇒コアポスト別人材要件定義⇒タレントのアセスメント特定⇒コアポストとタレントのマッチアップ⇒タレントの個別管理⇒タレントマネジメントの効果測定

【人材要件定義】

・業績(パフォーマンス)と能力(コンピテンシー)の2要素で行う

・業績とは職責に対する結果、結果責任と遂行責任がある

・能力とは「職務遂行能力」のことであり、抽象概念である能力はスキル、知識、経験、志向、価値観等の要素に分解される

【コンピテンシー評価によるタレントアセスメント】

 ポスト別に定義されたコンピテンシー基準により、タレントとポストのマッチングを行う

【トータル人材開発体系の整備】

 「気づき」「動機づけ「場の提供」「研修」を統合・アラインメントしたものがトータル人材開発体系

 

2.招待講演

安崎暁グローバル企業発展研究会会長 安崎氏より「日本型ハイブリッド経営における人材育成と情報武装」と題して講演が行われた。

安崎様

<講演要旨>

【コマツ創業者精神】(創業者 竹内明太郎氏)

・工業技術の革新                                          

・人材育成

・世界への雄飛

【経営理念】

 「工業技術の革新とそれを支える人材の育成 そして世界への雄飛」

  ⇒「グローバルな連結経営」

・経営と技術の自己革新

・グローバリゼーション

・経営のインフラとしての人材育成と情報武装

【コマツの目指すグローバリゼーション】

・品質と信頼性 : 日本のコマツ⇒世界のコマツの原動力

・モノ作り文化 : 開発・生産・マーケティング・管理の全部門が一体となった活動

・顧客、ビジネスパートナー、コマツのWIN、WIN、WIN関係

・コーポレートガバナンス

・現地に溶け込んだオペレーション

【日本型ハイブリッド経営】

・老壮青 長期と短期のバランス:人材活用、教育投資、新陳代謝

・多様性の尊重:東洋と西洋文化、日本と世界、グローバル・チームワーク

・複眼、多眼、上下左右、縦横斜めの視点:ハードとソフト、長期と短期、機械と電気・機械システムと情報システム、生物・科学と物理学・工学

【社長就任時の考え】

・柔軟で敏捷な企業体質 人材育成と情報武装

・グローバルな連結経営

・戦略事業分野

【経営インフラとしての人材教育】

 環境変化による人事制度改革の視点

・人材開発の投資効率は研究開発や設備投資より高い

・プロフェッショナルとマネージャーの両方を活かす

・シーズとニーズをつなぐ事業化構想を持つビジネスリーダーを育てる

・日本のコマツだから世界のコマツがある

・人材育成は社長の仕事 誰にも任せない

【技術者の育成】

・固有技術を高めて高い専門能力を持つ技術者が計画的に育成されるよう「技術職人制度」を導入(1997~)

・技術者は「技術力」で評価 技術者の技術者による技術者のための制度

・基本的に技術者の評価・処遇は技術者・部門が主体となって実施

・技術者から経営者候補を育成⇒ビジネスリーダー育成

【日本企業の特徴】

ビジネスリーダーは待っていても育たない

 ⇒従来のシステムで育たないのであれば、新しいシステムを創る

 ⇒機会均等は人を不平等に扱う、だから選抜して育てる

【コマツのビジネスリーダーを育てる仕組み】

 45歳の社長を育てる、10年間で500名の育成

 ⇒ビジネスリーダー選抜育成制度導入(1996~)

 ・早期選抜⇒高いレベルの研修⇒より困難な業務への挑戦⇒修羅場を乗り越え真のリーダーへ

 ・スペシャリストとマネージャーの両方を活かす

 ・事業を牽引できるビジネスリーダーを計画的に育成

【会社は創造と挑戦の場】

 会社は舞台、役者は社員 会社を利用して己の志を果たす

 真の競争相手は同業他社ではなく、世の中の変化

 

3.会員講演

CIO賢人倶楽部アドバイザーの沼氏より「情報システム部門における人財育成」と題して講演が行われた。

<講演要旨>

【普遍的なグローバルITのミッション】

 イノベーションとビジネスへの価値提案プログラムの立案と実行を通して、会社の競合優位を確保する

-Value Creation

-Cost Leadership

-Operational Integrity

【ITプロフェッショナル=IT部門の役割を担う人材】

2種類の能力要件を必要とする

-コンピテンシー:組織の価値行動基準を実践できる能力

-ファンクショナルコンピテンシー:役割を遂行するための専門スキル

【2010年以降 IT部門の重要性を増した役割】

・IT人財の大変革期到来 ⇒ 「作る」ことから「使う」ことへのシフト

・IT役割ベース ⇒ ビジネス目的ベースへ

・ビジネス部門と一体となったIT部門が必要

 -将来にわたりITが果たすべき役割の再定義

 -その役割を担う新しい人財確保

 -その人財を成長させるためのキャリアパスとメンタリング・コーチング

・ITプロフェッショナルの役割の変化

  役割ベースの組織 ⇒ ビジネス目的ベースの組織

【未来の社内IT部門の役割への再編】

・CIOのリーダーシップのもと個々人の役割拡大が必要(少数精鋭へ)

・未来のITプロフェッショナルの育成

 -グローバルに全社一丸となったITプロフェッショナルの育成(人事主導、IT主導のそれぞれの役割)

 -学ぶ意欲・変化を牽引する情熱を醸成

【グローバルリーダーの育成】

・チェンジリーダーは一人ひとりを変えるための個別アクションプランを遂行

・メンバー個々の性質・成熟度に基づくリーダーシップの実践

【未来の担い手に求められる8つの力】

・計画・設計力:チェンジプロジェクト戦略策定、ビジネスプロセス構築、変革

・技術力:新技術を単体としてのみならず、トータルポートフォリオとして短時間で理解

・プロジェクトマネジメント力:社内外のステークホルダーを取り纏めてプロジェクトを推進

・サービスマネジメント力:サービス開始後の安定稼働を保証

・文化・組織横断的コミュニケーション力:内外の利害関係を協力関係に変える

・好奇心・ひらめき力:現状を変えるアイディアを創造

・記憶力・応用力:学んだことを経験として整理、蓄積、活用

・勇気:自身のビジネスフィロソフィーを持ち、狙った変革を推進

 

4.パネルディスカッション

パネル

以下のテーマにてパネルディスカッションを実施。

【ディスカッションテーマ】

(1)IT部門に期待されている役割について

(2)IT部門の人材育成の取組について

【パネリスト】

安崎 暁様(安崎暁グローバル企業発展研究会会長)

沼 英明様(CIO賢人倶楽部アドバイザー)

木内 里美様(株式会社オラン代表取締役、CIO賢人倶楽部会長)

田口 潤様(株式会社インプレスIT Leaders編集主幹)

※モデレーター 立川 智也様(KPMGコンサルティング株式会社パートナー)

 

安崎氏:太平洋戦争は情報で負けた。日本は重要情報を使いきれなかった。情報活用の失敗だった。米国は技術により日本の通信情報を傍受していた。情報の大事さは戦争に現れる。企業間の国同士、地域同志の競争は戦争に似ている。

沼氏:すべての仕事は人を見ることだった。将来どういう人財を作りたいか、どういう仕事をしたいかがCIOの仕事。最初は大変だが、うまくいけば皆が動き始めるので暇となる。

田口氏:講演資料を是非手元に欲しい。安崎さんは「真の競争相手は他社ではなく、世の中の変化。」とおっしゃったが、 Destruction is new normalというように、変化の先にあるのは破壊が新常識であり、IOT、クラウド、モバイル時代の今日といえる。沼さんは

新人財育成モデルもシステム部門が変化に対応するのではなく、変化を牽引するとおっしゃったが身に迫る良い話だった。

安崎さんが社長の当時、当時Baanの導入がうまくいっておらず、「動かないコンピュータ」で取材したこともあった。

安崎氏:自己流のプロジェクトだけではだめで、コンピュータ等のハイテクとは違い、モデルチェンジは10年間隔。これでは戦えないので、世界同時で商品開発を行う必要があった。

田口氏:以降コマツはITでビジネスを牽引していく存在となっている。また、沼さんの話の最後の「教養」が大事。

木内氏:お二人の話によれば、環境変化はあたりまえだが、真理・軸は変わらない。世の中が変わっても怖くはない。会社の成り立ちも同様。また、人材教育においては欧米の素晴らしい仕組みもあれば、日本固有の考え方もある。しかしどちらも本質や真理を追究し魂を入れなければうまくいかないし、それを忘れてはならない。

 

【IT部門に期待される役割と人材育成について】

安崎氏:社員教育を社員の実勢に任せているようではだめ。例えば情報分野ではサイバー攻撃に日本はどう立ち向かうのか、国民の実勢に任せているようで心配。待遇を良くしないと対応人材は集まらない。マイクロソフトのような会社が何故日本に現れないのか?国全体に共通の教育システムが必要。富士山に登るのに普通に登るのではなく、壁を垂直に瞬時に上がるような革新が必要。

沼氏:Leader creates future 幸せな未来が欲しいのに違う方向に行ってしまうのは、コミュニケーションの問題。人材育成の場合、あなたの未来はあなたが作るという使命感を共有していく事が大事。ビジネスは全然違うので十把一絡げの研修ではだめ。

 プロジェクト、変化に抵抗する人がいるが、そこには理由がある。何でそうなるかしっかり出させることが必要だし、それがリーダーの仕事。

田口氏:IT人材白書制作の委員をやっているが、同様の回答である「教育は自主性に任せる」という回答が多い。ITスキル標準、ユーザースキル標準の普及率調査もあるが、ITスキル標準の普及率はIT企業で5割~7割、ユーザー企業は3割台。まずは可視化が必要。良い仕事をしても給料を上げられるかは日本の場合は不可能。うまくいって当たり前で普通の給与、失敗したら浮かび上がれないこともある。海外は失敗をしてもそれをバネに次の仕事に繋げられる複線的なキャリアプランがある。日本の場合、終わってしまうのでリスクを取るよりは確実に・安全にという形になる。

安崎氏:リーダー教育において色々な仕事をさせようと思って2年単位で事業をやらせたが失敗だった。変えられた方は2年では全然評価できない。5年~10年やってわかってやらないと評価できない。また、幅を広げるためにT型人間をつくろうとしたこともあるがこれも失敗した。真ん中は太くしなければならない。ある程度の専門性を持って誰にも負けない部分を持たせた上で横の幅を広げることが大事。

田口氏:白書の1位である「社員の自主性に任せている」について本当に自主性に任せているかについて。例えば今日は台風にもかかわらずこれだけの方が参加しているが、一般的にはユーザー企業ならびに若手の方が非常に少ない。30代、40代はもっと勉強すべきなので、部下をこのような勉強機会にもっと出席させるべき。

沼氏:中堅になると失敗からしか学べない。成功ばかりではゆでガエル。失敗から学ばせることが必要。失敗しないようにだけではだめ。若い人がやる失敗は全く問題ない。失敗の無い組織は成長しない。

木内:「自主性に任せる」は人材育成ではない。育った人間を登用して使うだけ。人材が足りないという人が多いが、質が足りない。

沼氏:ネットワークも大事。外に出て学ぶことが人を育てる。

 

Q1.白書では人材育成について勝手にやれということだが、前向きな回答はあったのか?前向きな取り組みの企業について聞きたい。

田口:選択肢は多いが、回答についてはWEBで公開しているので是非見てほしい。

Q2.人を成長させることができる人材も少ないのではないか?どのような方々に育てていただいたか?

沼氏:あまり上司の言うことを聞かずに好き勝手をやっていた。しかし今思えばいかに好きにさせてやらせて頂いていたかということがよく分かる。そのような先輩は多かった。

安崎氏:新入社員の頃は勝手な事をやっていたが、3代目社長の河合氏が人材を外から採用することをしていた。そのような外部の方に支えられた。また戦争体験者には、教育をしっかりやれと言われた。社長になって失敗賞として賞金200万円を創って応募したが、誰も出てこなかった。教育という意味では、宮内庁の方の大脳生理学の本では、日本人は人を押しのけてどんどん行く人は少ない。チームワーク重視の方が日本人にはあっている。

沼氏:部下をお持ちの方が多いと思うが、外の部から欲しいと言われた場合、出来ない人を出すのではなく一番できる人を出す方が良い。それによって穴ができたことによる成長、新陳代謝が起きる。

Q3.IBMのレポートにCXOリサーチによると、海外に比べ日本のCEOがIT部門に期待していることは非常に少ない。日本の会社ではIT部門に一番重要な人を置いていないし、力を入れていないように思える。どのように捉えるべきか?

田口氏:ITに関する感度が日米で全然違う。2年前の調査の例で、Big dataについて日本のITパーソンの4割が知らないと回答したのに対し、英国では知らない回答比率は1割以下だった。背景はライバルが競合他社ということ。価格、営業、品質、どんなに頑張っても業界序列が決まっており、日本社会ではこれを抜くことは難しい。

以上