cio賢人倶楽部 ご挨拶

活動内容

「事例に学ぶ、ビジネスに直結するシステム構築」セミナー開催

テーマ:事例に学ぶ、ビジネスに直結するシステム構築 ― 成功に不可欠なCEOとのコミュニケーション ―

更新: 2015年4月30日

日 時:2015年3月19日(木)14時~18時
場 所:あずさセンタービル12階

主 旨:今期の賢人倶楽部における意見交換の中で、これからのCIOに求められる役割の重要テーマの一つとして「ビジネスに直結した情報システムの構築」が議論された。今回のセミナーでは当該テーマに基づき、10億件を超えるビッグデータを活用しクラウド環境で店舗運営を行う株式会社あきんどスシローの店舗オペレーションシステム、また、今般30年以上使い続けた重要基幹系システムのマイグレーションに挑戦しているANAの国内線・国際線旅客システムの2つの好事例を発表させていただいた。また、会員とのパネルディスカッションを通じ、CEOとのコミュニケーションの在り方について公開討論を行った。 

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1.スポンサーセッション

CIO賢人倶楽部の木内会長の挨拶の後、KPMGコンサルティング株式会社の西崎代表取締役より「国内外IT投資の現状と課題」について講演頂いた。

<講演要旨>

【ICT投資規模・方向性】

  • 日本のICT投資額はバブル崩壊以降伸び率が鈍化
  • 米国経営者はICT投資マインドが旺盛
  • 日米経営者のICT投資への期待にギャップ、米国は”攻め”、日本は”守り”
  • 高いICT投資効果を認識する米国

【ICT人材】

  • ICTサービスを社外に委ねる日本企業
  • システム導入における日本企業の外注比率は高い
  • 外部専門家を積極採用する米国企業

【CIOに求められる今後のアクション】

  • ICT技術の進化による経済・社会のパラダイムシフト
  • CIOの存在意義は大きく変化
  • CIO/IT部門の役割は、ビジネス戦略に関わる領域まで拡大

また、KPMGコンサルティングの来期主要サービス分野であり、近年IT部門が抱える主要な課題の一つである「サイバーセキュリティ対応の今後」についてKPMGコンサルティングパートナー田口篤より講演があった。

<講演要旨>

【2020年東京オリンピックに向けての対応】

  • 日本企業、日本政府の潜在的リスクの高まり
  • スタンダード準拠からリスクシナリオアプローチへ
  • PCネットワークからIoTや制御系システム対策へ
  • 防御から検知・回復のアプローチへ

【個人情報保護の対応が迫られる】

  • マイナンバー制度の開始
  • 個人情報保護法の改訂

【KPMGのサイバーセキュリティ関連サービス】

  • グローバルサイバーセキュリティーネットワークの構築
  • サイバーアセスメントサービス
  • サイバーマネジメントサービス
  • サイバーインテグレーションサービス
  • サイバーレスポンスサービス
2.招待講演

外部先進事例として、株式会社あきんどスシロー 情報システム部長 田中覚様より「”基幹クラウド”が変えるシステム新時代、あきんどスシローの新店舗オペレーションシステム」と題して事例発表が行われた。

<講演要旨>

【食材ロス】

  • パック廃棄>レーン廃棄>歩留ロス          
  • 需要予測が必要

【Before Cloud】

  • ICタグによる単品管理、POSでは皿数しか分からない
  • メニュー別売上管理体制
  • 必要な量=経過時間(客数把握、着席時間)×食欲パワー(食欲モデル)

【データアナリティクス】

  • 部門別データニーズの違い
  • とりあえず試したCloudの実力がすごい
  • 圧倒的な構築スピード
  • データ分析でわかることの多さ:オペレーションのバラツキ

【Cloudの実力】

  • 使いこなせなければ意味は無い
  • 標準化のための教育必要:目的を実現するために何をすれば良いかが重要
  • 結果だけでなく、販売状況もしっかり見る
  • 結果的には、やるべき事をしっかりやるだけの事
  • SAP会計:5か月のスピード導入、シンガポールにDRサイト
  • IoT:Internet of Things、流し方と売れ方の把握が可能に

【Reservation System】

  • 企画からリリースまで3カ月、6か月で全店展開
  • 100万ダウンロード
  • 待ち時間予測の展開:予測モデルの変化

<Q&A>

営業が必要なデータについて

  • データのニーズ、提供内容は店毎に異なる
  • 標準化が大事、営業との握り

データ提供にかかる時間について

  • 最初は都市伝説集めを行った。地域・店舗毎の様々な知恵・考え方を収集・分析
  • 新店の廃棄率は高い理由がデータを見るとわかる。

情報システム部門について

  • 人数は5人で回している
  • クラウドについては全てを理解しようとはしていない。業務寄りに集中し、インフラ関連は切り離し、ベンダー、SIerに任せている。守備範囲は変わる。
3.会員講演

会員先進事例として、全日本空輸株式会社 業務プロセス開発室 イノベーション推進部部長 荒牧秀知様より「2つの重要基幹系システムのマイグレーションへの挑戦~ANAの国内線・国際線旅客システム~」と題して事例発表が行われた。

<講演要旨>

【ANAを取り巻く環境変化】

  • 国際線比率の拡大
  • 外国顧客の利用拡大
  • 外国航空会社との提携強化

【国内線、国際線ツインホスト構成について】

-1988年当初-

  • 圧倒的規模の差

-2005年以降-

  • 同規模マーケット

【システム化要件確定】

  • 非常に高い性能要件
  • サービス提供時間: オンライン24時間365日
  • 障害復旧時間: 15分以内

【レガシーマイグレーションの難しさ】

  • 移行失敗→企業活動に直結
  • シビアな性能要求&信頼性
  • 超巨大システム→移行困難
  • ROIを産まない

(1) 国内線レガシーマイグレーション(パッケージ開発)

-全体計画策定~事前検証-

  • As Is評価: 機能/コスト/技術観点の定量的評価実施
  • To Be策定: 10年後を見据えたTo Be策定
  • 計画詳細化: 実機検証等を行い、精緻な計画策定

 <経営とのコミュニケーションのポイント>

  • 現状分析を定量的に行い、正しい判断を促す
  • リスクを共有する
  • 計画段階で稼働まで見据えたコミュニケーション計画を立案

-事前検証~開発-

  • 長期開発: 仕様凍結は最大3カ月、現行システムのEnhanceを止めない
  • 性能/品質: 公共サービスを担う性能及び品質担保
  • 移行: 4.5時間での一括移行

 <経営とのコミュニケーションのポイント>

  • リスクを共有する
  • 対応策についての合意形成
  • コンティンジェンシープランの提示

-稼働後-

 <経営とのコミュニケーションのポイント>

  • 障害発生状況の報告と終息への道筋
  • 主菅部室との連携状況
  • 今後のイベントスケジュール共有

 (2) 国際線レガシーマイグレーション(アウトソーシング)

-事前検討~F&G-

 <ポイント>

  • ソリューション評価: アウトソース先の有効性検証
  • Fit & Gap: 既製服に業務を合わせる事ができるか
  • 業務再構築設計: 戦略機能は自社開発で対応

 <経営とのコミュニケーションのポイント>

  • グローバルスタンダード対応の必要性確認
  • コストの変動費化の必要性を共有
  • 業務プロセスチェンジのメリデメを共有

-F&G~契約交渉~開発-

 <経営とのコミュニケーションのポイント>

  • 業務効率化効果の明確化
  • 変動費化によるコスト削減の実現
  • シンプル化、分かりやすさの実感

<Q&A>

ユーザとのSLA締結の有無とそのスペックについて

  • 文書での取り交わしは無し。スペックはシステム要件として共有。
  • 国内線システム:ベンダーコンソーシアムと契約締結
  • 国際線システム:海外航空会社100社以上が利用しているサービス利用

社内評価のための方法について

  • トランザクションレポートを確認し、対応方針を立ててレポートしている

業者数・関係者が多い中でのオペレーション絡みのリハーサル方法について

  • 国内線システムはビジネスモデルを変えなかった。
  • 国際線システムは、9か月前からイニシャルトレーニングを実施し、その後ステップアップトレーニングを実施。GUIを開発し、覚える負荷を軽減し、慣れるトレーニングを実施。リハーサルは、半年前から大規模に3回実施。課題が出ればつぶし、リハーサルを繰り返した。
  • 事前準備について
  • IT推進室を業務プロセス改革室に改編し、仕事の進め方を変えた。

開発の特徴は

  • 国内線システムは、航空会社の基幹系のオープン化は世界初、大きなチャレンジだった。
  • 国際線システム開発は、自前主義から利用主義へ。従量制としボラタリティ対応を期して身軽に。
4.パネルディスカッション

以下のテーマにてCIO賢人倶楽部メンバーを中心にパネルディスカッションを実施。

【ディスカッションテーマ】

(1)ビジネスに直結するシステム構築

(2)TOPとのコミュニケーションの重要性

(3)今後のCIOの役割について

【パネリスト】

木内 里美様(CIO賢人倶楽部会長)

田中 覚様(株式会社あきんどスシロー 情報システム部長)

荒牧 秀知様(全日本空輸株式会社 業務プロセス改革室 イノベーション推進部部長)

田口 潤様(株式会社インプレス IT Leaders 編集主幹)

※モデレーター 立川 智也(KPMGコンサルティング株式会社 パートナー)

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(1)ビジネスに直結するシステム構築について

荒牧様

  • 国内線システム開発は、現行改修を実施しながらのイテレーション開発。30年間で作り上げたシステムの可視化とJavaへの落とし込みは苦労した。

田中様

  • 食欲モデルについてはアナログをデジタル化した。これは凄いこと。全面システム化ではなく、いかにオペレーションを支えるかが重要。アナログとデジタルの融合を行ってきた。
  • 元々は個店毎のデータを活用し、店舗を回した。クラウドを活用した集中化でメリットを得られた。会計システムは1日止まってもOKだが、クラウドの待客管理(スマホアプリ)はミッションクリティカルで止まると大変。時間と金をかけるカルチャーの変革が必要だった。システムに頼るカルチャーをチェンジする事に取り組んだ。

田口様

  • ANAを取材した事があるが、プロジェクトに6年間かけ、その間社長も変わる、エンジニアも辞めるリスクがある。また開発中に既存システムが拡張されてしまう。なによりも航空会社だけに365日の稼働が大前提で、計画停止が出来ないという大きな問題があった。どう乗り越えたかをIT Leadersに掲載した。一方、プロジェクト管理の方法論は、ユニシス技法という冊子に書かれている。今日、改めて聞いて、凄みを再認識できた。ぜひ皆さんも、記事やユニシス技法を読んで欲しい。
  • スシローについては5人で基幹系や店舗POSもこなしている。知恵を駆使して、AWS、トレジャーデータを自分で考えて活用している。BIツールも使い分けている。ユーザが勉強すれば10万円で活用できる仕組みである点も含めて、自らアクティブに取り組むことの大切さを示した。両社共に素晴らしいケースだ。

木内様

  • 規模、モデルは違うものの、皆さんに聞いてもらいたかった内容。セミナーではシステムの関心が多いが、経営のためにやっている事。事業の側、ビジネスの側から行っているケース。どのように売上を上げるかの観点で努力をしている。
  • スシローは材料コストに売上の50%を使っており、原価は高い。こんな飲食企業は無い。
  • このモデルを実現するためにクラウドを使いきっている。
  • ANAについても非常に高い信頼性という他業界では考えられないスペックを求められ、それを計画的に実現している。このパワーには驚く。私は建設業で良かった(笑)。

荒牧様

  • 世界の航空会社がすべてそういうだというわけではない。世界に冠たる日本の新幹線の定時出発率と戦う上で要求水準が上がったという特殊性もあった。

木内様

  • スシローの品質へのこだわりにも同じ志を感じる。


(2)TOPとのコミュニケーションの重要性

CIOの地位向上のためのCIOとのコミュニケーションの在り方は?

荒牧様

  • IT戦略推進委員会(現業務プロセス改革会議)は2か月に1回2時間の会議を10年来行っている。大型案件投資、IT投資、新技術、ワークスタイル変革等様々なテーマの議論をしている。経営戦略会議では1案件に多くの時間を割けないが、一方で業務プロセス改革会議では1案件に十分な時間を掛けて経営陣に議論していただいている。CIOの幸重が足しげくCEOと情報連携をしてくれるため、下のメンバーは大変やり易い。

田中様

  • 内紛で上場廃止。今はCFOが上司としてCIOを兼任している。2月に社長が交代したばかり。
  • 昔は1フロアで1箇所だったので社内コミュニケーションやり易かったが、大企業になってきた。ただ執行役員に気軽にコミュニケーションできる風土がある。
  • ITコミッティーが月1回第一水曜日に実施されており、報告・協議・決議が行われる。この場で課題も共有している。

田口様

  • 成功例は、やはりトップの意向が大きい。西崎さんから日米のIT投資の比較を話して頂いたが、我々も一昨年特集をした。これは極めて重要な差である。
  • どうしたら良いかが問題であるが、今回のANAは社会インフラ企業であり、スシローは厳しい競争を戦っている飲食企業。話を聞くと分かるが、両社とも恵まれていると言える。普通の製造業にCIOに言わせれば、両社のようにできればいいが、経営層の理解の面で両社は理想論と捉えられる場合もある。ここについては是非今後も、CIO賢人倶楽部で議論してほしいところだ。
  • 今年2月に発表されたJEITAの調査では、IT投資に意欲的な会社ほど売上・利益が高い傾向が示されている。さらに5月には、東証、経産省が改めてIT投資銘柄を発表する予定。IT部門がアクティブに提案できるかが問われる時代になる。CIO/IT部門にはフォローの風があり、これらの事実やデータ、今日の2事例を上手くいかすといい。

木内様

  • 経営とITについて投資の意思決定ができるCEOが一番重要。理解のあるTOPのケースと理解のないTOPでは大変な差。
  • 日本の教育は情報リテラシー教育をしてこなかった。これはTOPも一般サラリーマンも同じ。エクセルとワードから教育したのが大間違い。今頃になって小学校からタブレットを使い始めている。道具から入るのも間違い。
  • まずはしっかりとTOPとコミュニケーションすることが大事。マイグレーションにROIは関係ない。真正面から言っても理解はされにくい。BPRと一緒にやらないと理解されない。TOPは情報コストの相場観無しのため、しっかりと説明しておくことが大事。大規模企業会計がなぜ勘定奉行ではできないかの説明ができないといけない。
  • CIOはどこかでCEOの信任を受ける事が必要。これでやり易くなる。以前は投資決済の基準は無かったが、CIOになった時に決済金額が一億円あった。同業他社は500万円だった。CIOとの信頼関係を作ることが大事。


(3)CIO/IT部門のあるべき姿

荒牧様

  • 顧客が求めるものが重要。モバイル・ネットの生活が身近になってきている。コンシューマITがどんどん先に進んでいる。感度良くサービス・オペレーションを革新していくことが大事。

田中様

  • IT投資については火の無い処に煙は立たない。リプレイスにうまく乗せてメリットを引き出す事が大事。イノベーションをスピード速くやること。これにより評判、成果、追い風がついてくる。巨大な予算は取れないが、クォリティーが大事。SE単価100万円か200万円かバランス取るのが難しい時代。

田口様

  • IT投資は、リターンを問われる。確かに巨額の予算を使うし、甘い考えで失敗することは許されない。基幹の予約システムを刷新するとなると確実な見通し、ガバナンスが欠かせない。しかし、今日のIT活用はそれだけでは済まない。保守的なだけでは存在感を問われる時代である。「10万円で済むから、ともかくやってみた」という、あきんどスシローの姿勢に学ぶべきことは多い。
  • ANAのCIOである幸重さんは、自ら「Googleグラス」を試したりしている。ANAのIT部門が自ら実験台になり、BYODにも取り組んでいる。発売間近なApple Watch、Pepperなども、CIO/IT部門は自ら試してみることが大事。木内さんも好きで楽しんでいる。Valueを感じるためのトライが必要。

木内様

  • B2B、B2Cで経営視点は違う。ひとつは利活用で底上げ必要。セキュリティーは深刻化しているのでトレードオフにしてはだめ。2つめはバックからフロントへ改めていかざるを得ない。データを元にマーケティング、予測、コントロールをしかけていく。従来の守る仕組みとは違う組織やり方を考えるIT部門が必要。早く手を打ち変化していくことが大事。

以上

※掲載写真は「経済産業新報」よりご提供いただきました。