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伊勢神宮の式年遷宮に学ぶ、基幹システムのあり方

更新: 2014年4月1日

円安、株高によって長い景気低迷のトンネルをようやく抜けてきた感がある最近、弊社にいただく情報システムに関する相談内容が少し変わってきている傾向がある。基幹(業務)システムの見直しの相談が多くなってきているのだが、その内容は「経営層があまり乗り気ではない。他社はどうなのか、どう経営層にアピールすればいいか」といったことだ。

日々粛々と稼働している基幹システムに手を入れても、「新たな効果を生まない」「再構築には多額の費用がかかる」という印象が経営層には強く、バブル崩壊以降の厳しい経営環境の中、基幹システムについては再構築ではなく延命措置をとってきたという背景がある。2000年問題時に基幹システムを再構築やERPへの置き換えができた企業はまだしも、生産管理や受発注などのシステムは20年前のままという企業は意外と多い状況である。

必要に応じてパッチワーク的に拡張、改変してきた30年もののシステムも結構存在している。お酒ならいざ知らず、“年代物”のシステムはしゃれにならない。システムを熟知した担当者が異動・退職して、現担当者は決まった運用しかできず、変更やトラブル時には想像を超える時間と費用を費やすという、あってはならない現象にも陥りがち。サポートするベンダーも開発者が世代交代しており、同様にブラックボックス化している。

よく言われる「改築と増築を重ねた、古い温泉旅館」と同様の状況にあることを知らない経営者が多いのだ。それに対して情報システム部門は声をあげているのだろうが、基幹システム再構築にかかる自らの負担や、万一の「動かないシステム」「システム障害」のリスクを懸念し、説得に力が入らない。古い温泉旅館のように目に見える現象がないのをいいことに、再構築を先延ばししているのである。

しかし古いシステムを放置することは、実は経営リスクにつながる。IT部門員やベンダーSEの高齢化、退職によって徐々に基幹システムの「残存耐用年数」は減ってきている。基幹システムにはその企業のオペレーション・ノウハウが積みあがっている。それを理解している社員が残っているうちに「知」の伝承を考えないと、企業運営自体に支障を来すリスクがあることを経営層に伝える義務がIT部門にはある。

昨年、話題になった伊勢神宮の式年遷宮は単なる儀礼ではない。建替えの技術の伝承を行うため、寿命や実働年数から考えて建築を実際に担う大工は10歳代から20歳代で見習いと下働き、30歳代から40歳代で中堅から棟梁となり、50歳代以上は後見となる。このため20年に一度の遷宮であれば、少なくとも二回は遷宮に携わることになり、二回の遷宮を経験すれば技術の伝承を行うことができる。

これを企業の場合に置き換え、20代前半で入社、退職を60歳としよう。すると20年に一度の基幹システム再構築でも関われるのは2回まで。20代後半でメンバーとして関わり、40代ではプロジェクトマネージャ、PMOとして関わるというサイクルを作らないと基幹システムの伝承は難しい。CIO、IT部門は日々の基幹システムの安定運用・保守は当然のこととしつつも、外部の有識者などもうまく活用して自社の基幹システムの状況を的確に経営層に伝え、責任を持ってシステムの再構築してゆくべきと考える。

株式会社レイヤーズ・コンサルティング
IT事業部 統括マネージングディレクター
有川 理