cio賢人倶楽部 ご挨拶

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CEOとの関係におけるCIOの役割について

更新: 2014年9月1日

本リレーコラムの初回に、当倶楽部会長の木内里美氏が「経営とITの融合」というテーマを取り上げていた。今回は私自身の経験を踏まえ、少し角度を変えて「CEOとの関係におけるCIOの役割」について取り上げたい。

私は2005年から5年間でグループ会社2社のCEOを務め、その後、2014年3月までの4年間、ヤマトホールディングス(株)において「グループCIO 兼 経営戦略担当役員」の任に就いていた。グループCIOに就いている間、十分とは言えないにせよ、CEOと意思疎通を図るよう努力し、CEOの理解と協力を得て何とか取り組んでこられたと思う。

この間、私がどんな経験のもと、どんな考えに至ったのかを述べてみたい。まず、もう一度簡単に私の経歴をお話しておく。多少なりとも読者の皆様の参考になれば幸いだ。

入社後は宅急便の現場に配属されたが、その後は情報システム部門を中心にしながら数年おきに現場責任者を経験した。2005年、2社のグループ会社においてCEOを務めることになった。最初の会社は創業30年を超えていたが、ほとんどIT化されていなかった。お客様情報のDBなど営業系はおろか事務・業務系もIT化されておらず、二度手間や請求ミスなどでお客様に迷惑をおかけすることが少なからずあった。事業継続は危機的とさえ言える状況だった。

2社目は同業他社15社と連携してひとつの輸送商品を取扱う、新しいビジネスモデルを展開する会社である。事業を成功させるためには、標準化されたITの早期導入が不可欠だったが、創業したばかりで、それは存在しなかった。

2社ともに様々な出来事、難題があったが、結果的には事業展開に合わせたIT化を図ることができ、現在も順調に成長を続けている。成功要因を私なりに分析すると、事業立て直しや成長のための経営戦略に合致したITを、素早く導入する決断が出来たことが大きかったと思う。それができたのは、やはり「CEO=CIO」だったからだ。

こう書くと「CIO不要論」を展開しようとしていると考えられるかも知れないが、結論はもう少しだけ待って頂きたい。

「CIO不要論」の是非
実は私は過去に、「CIO不要論」を唱えていた時期があった。グループ会社の社長に就任する前、IT部門の管理職をしていた頃である。「CEOがITを理解すれば、意思決定が早いし最も効率が良い」と考えていた。役職上位者の意思決定段階が複数あると、最終判断までに時間がかかり、適時導入が出来ないという苛立ちから、そのように考えたのだ。

ところが実際にCEOを経験して、それは大きな考え違いであることに気が付いた。当たり前のことだが、経営におけるCEOのカバー範囲はITだけではない。マーケティングや営業に関わることや組織・人事、財務/法務などはもちろん、日々発生するイレギュラー案件にも判断を下さなければならない。間違った意思決定は、企業存続に重大な危機をもたらすから大変だ。

CEO時代、私も日々変化する経営状況に対し、様々な判断をしなければならず、正直言ってかなり戸惑いを覚えた。実務経験がない分野については、得意のITのように「即断即決」することができなかったのだ。結局、経営判断をする都度、該当部門の責任者に意見を求め、大いに助けてもらった。

結論に入ろう。今後ますます進むグローバル化やITの進化、競争の激化など経営環境が複雑化していくことを鑑みると、「CEOの右腕としてのCIO」は絶対に必要だ。ITのトレンドをキャッチアップし続け、経営に適切に取り込んでいく判断はCIOの役割になるからである。CEOにどんなにITスキルがあったとしても、この点は変わらない。IT部門の管理職の頃にCIO不要論を唱えていたのは、今にして思えば単に情報システム担当者としてのわがままな考え方だった。

しかし、そこには条件がある。CIOには、自社の経営ビジョンの深い理解は当然のこととして、ビジョンに込められたCEO自身の思いを理解し、方向性を一致させることが求められるのだ。その上でITに関わる戦略を策定し、全体戦略と合致させ、優先順位を適切に判断し、CEOと協力して進めていく。CEO、CIOのお互い理解が進み、協力関係を築けた時が、本当の意味で「経営とITの融合」の第一ステップではないだろうか。

ヤマト運輸株式会社
執行役員中国支社長
小佐野 豪績