cio賢人倶楽部 ご挨拶

オピニオン

崖っぷちに立たされたIT部門の進むべき方向とは

更新: 2014年11月1日

ITを取り巻く環境が大きく変わろうとしている。数年前にはバズワードと呼ばれた「クラウド」は、今や当たり前。快適なモバイル環境はタブレットやスマホなどの新端末の活躍の場を広げ、様々な「もの」がインターネットに繋がりつつある。クラウド技術やビッグデータにより復活をとげた人工知能(AI)は近い将来、夢のようなサービスを提供するはずだ。

インターネットの出現が社会を大きく変えてきたように、こうした新たなITの潮流は、社会をこれまで以上に、一層大きく変える。企業活動においても、ITの活用の巧拙がますます大きな影響を与えるはずである。

ならば、IT部門の役割もまた重要になっていくはずなのに、多くのIT部門はなぜか元気がないように見える。新たなITに戸惑い、対応する有効な手立てを打てないでいるかにも見える。

最近、IT部門はビジネス部門から煙たがられているという。クラウドを使いたくて相談に行った。IT部門の答えはセキュリティ上の理由とかで、ろくに検討もせずにNo。埒が明かないと感じたビジネス部門はIT部門を無視し、いわゆる「シャドーIT」なるものが社内に蔓る――。こんな構図だろうか?

クラウドやモバイル端末の出現は、セキュリティと利便性のバランスを、より一層厄介な問題にした。そんな中で新たなITについていけず、ベンダーに丸投げしたIT部門は、「単なる手配師は、もういらないよ」とビジネス部門から三行半を突き付けられているのかも知れない。

もっと深刻なのは、ITが進化すればするほどIT部門は小さくて済むかも知れないことである。ITは一般の社員では扱うのが難しく、これまでは専門家に任せざるをえなかった。ところがITがコモディティ化していくにつれ、専門家は必要なくなっていく。

例えばITインフラの管理は、総務でも十分になるかも知れない。パッケージやSaaSが進化すれば、各ビジネス部門が主体になってITを導入する可能性が出てくる。既存システムの保守・運用もあるので一足飛びにとはいかないにせよ、大きな流れとしてはIT部門の役割はどんどん小さくなるおそれがある。

IT部門とビジネス部門の乖離、そしてITのコモディティ化の進展は、「IT部門不要論」をさえも生み出し、IT部門を崖っぷちに立たせている。それから脱却するために、これからの時代のIT部門はどういう方向を目指したらいいのだろうか。

そもそもITはあくまで手段。あくまでも道具であり、それ以上でもそれ以下でもない。ITを活用する目的は何か、その目的がITの導入により達成できたのかということこそが重要なのだ。極端に言えば目的が達成するのであれば、ITはなくたっていい。まぁ、このご時世でなにかやろうとすればITの活用は必須にはなるだろうが。

ところが、残念ながらIT部門がリードしてシステムを導入する際、目的と手段が逆になっているケースも多い。欧米発のERPパッケージの導入などは、手段が目的化している最たるものではないだろうか。ERP導入の目的として掲げた、業務改革や経営の見える化が、目標通りに達成されたプロジェクトの話をあまり聞いたことがない。

目的と手段とを取り違えてはならない。やるべきは目的を達成すること。IT部門は自社の課題を解決するための手段を自立的に考える「企画」の立案と実行にもっと注力すべきだろう。ビジネスの効率を上げ、ITの新潮流に即したビジネスモデルの構築を起案し、ビジネス部門に投げかけ、両者がタッグを組んで実行する――そんな姿である。

幸い、IT部門には論理的な思考やものごとを分析できる能力と、全社の組織を横断し、俯瞰できるポジションがある。それを活用し、自社のビジネスを取り巻く環境を熟知したうえで、ビジネス変革のためのコンサルの役割を果たすことが、今後のIT部門に求められていることだと考える。

さらには、ソフトウェアは次々と更新されたとしても、それが扱うデータはその継続性と全体の整合性を考慮し設計・管理されなければならない。まさに企業活動にまつわる様々なデータこそはその会社固有の財産でもある。企業のデータをどう管理し、その品質を維持しながら、データを踏まえた意思決定を支援する環境をきちんと作ることができるかは、今後ますます重要になるだろう。

単に見える化のためのシステムを作ることにとどまらず、視点がどんどん変化していくことに対応しながら、経営の欲するデータを、ITを駆使しながら加工・提供する仕事は、これからのIT部門が担う大きな役割になるはずだ。

まとめて言えば、ビジネスとITを知り社内コンサルとして企画の立案・実行を担う役割と、全社のデータを管理し経営に必要なデータを提供すること。この2つが今後のIT部門の新たな大きな役割となると考えられる。

もちろん、コモディティの活用だけでは容易に解決しない領域におけるIT活用の仕事は残るだろうし、まさにその領域こそが自社の競争力を支えている場合も多い。そういった領域でのIT活用こそは、IT部門がイニシアティブを取り推進していく仕事のはずだ。ベンダーに丸投げすることなく、ビジネスの本質を認識した上で、必要なら自社で内作をしてでも、ビジネスに柔軟に追従、あるいは先回りする仕組みを構築したいものである。

いささか悲観的に書いてきたが、筆者はIT部門の未来は明るいと確信している。旧来の価値観ややり方を勇気を持って変革すれば、企業変革をリードする存在になるからだ。そうした、夢と希望がある新たなIT部門が増えてくることを望んでいるし、筆者自身そうありたい。元気のあるIT部門が増えることが、企業全体を元気にすることにつながると思うからである。

積水化学工業株式会社
経営管理部
情報システムグループ長
寺嶋 一郎