cio賢人倶楽部 ご挨拶

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システムという「事業インフラ」を考える

更新: 2015年4月1日

それまで都市ガスを製造するLNG基地関連業務を担当していた筆者が、IT部門に移ったのは2年前のこと。前任者からの申し送りでは「経営層との間で、LNG基地、ガス導管に続く第3の事業インフラとしてシステムを位置づける」と規定したばかりという話だった。インフラといえば基幹事業にとって必要不可欠で、万一、停止した場合には事業そのものが停止することを意味する。 

IT部門未経験の筆者にとってこれは朗報だった。インフラという共通認識をもとにLNG基地の運営から得た考え方や諸課題への取り組み方を、IT部門に応用してみようと考えることができたからである。簡単な話、事業が続く限り必要な長期に安定したものとしてインフラを運営するためには、普段のリスク管理と数10年先を見た人づくりが必須である。そこでIT部門でもリスク管理と人材育成が最も重要かつ普遍的な課題として自分自身の中で整理した。

危険物を大量に取り扱うLNG基地では、安全が最上位の概念である。辞書では「危険でないこと」と定義されていることから明らかなように安全の定義は難しい。そこで筆者は「リスクがないこと」という言葉に言い換えた。その上でリスクはゼロにはできないが、許容できるレベルまでの低減は可能と考え、リスクを見抜く人づくりに注力してきた。

と書いたものの、具体的にどのように育成すればいいか正解はなく、まことに難しい。有力な方法は、成功体験とともに失敗も数多く体感させ、PDCAを実践する中で反省をもとにした直感的な発想を持たせることだろう。しかし近年では、経験豊富なベテランが失敗させないように入念にお膳立てをして仕事にあたらせる実態もあり、どのようにして責任を持った経験をさせるかが重要なポイントになる。IT部門も同様の状況と感じており、若手に思い切って任せ、様々な経験を積ませ、それによって成長させることは重要であるが、難しい課題と考えている。

一方で、同じインフラでもITにはLNG基地のようなプラントとは異なる点もある。代表的なものが変化の時間軸が極めて速いことだ。LNGプラントは寿命が数10年以上と長く、技術は緩やかに進んでいく。対照的なのがITであり、日々学ぶべきことが多い。そういった点で様々なセミナーを含めた業界横断的な勉強会、そして当倶楽部の有用性を実感している。

最近、感じるもう一つの相違点が活用部門との関係である。基地には制御系システムがあり、その維持管理(構築)部門と活用側のオペレーション部門が存在する。オペレーション部門の要望を受けてシステムの拡充や改善を行うが、その際に複雑化やブラックボックスになるような対応は避けるのが原則である。利便性や効率性よりも安定稼働を優先するためであり、最終的には双方の部門で同じ価値観をもって決着する。

この点、ITはどうだろうか?IT部門と活用部門の間で安定稼働という観点で果たして共通の価値観として持っているだろうか。業務効率・革新といったシステムの役割発揮と、複雑化・肥大化を避けながらの安定稼働との両立をいかに図るかが今、大切にすべきもう一つの課題ととらえている。この点についても当倶楽部には期待している。

東京ガス株式会社
IT活用推進部長

礒村 典秀