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デジタルビジネスが引き起こす2次的変化、我々は対応できるか?

更新: 2015年6月1日

 1980年代までのメインフレームの時代、90年代のオープンシステムとPCの時代、90年代後半から2000年代のWeb(インターネット)の時代を経て、今、ユーティリティコンピューティング、そしてユビキタス・コンピューティングの時代に入りました。企業は、それぞれの時代に新たなITを必要に応じて活用し、業務のあり方や提供するサービスを進化させてきました。

 例を挙げると、事業を支える情報システムを確実に構築・運用する、モバイルなどを生かして働き方を変革する、Webで顧客との関係を強化する、といったことです。新たに出現したITを取り込み、ビジネスのあり方や事業を進化させることはそれ自体困難であり、高い専門性も要求されます。それらをしっかりこなすことができるCIOおよび情報システム部門は、十分な役割を果たしていると言えたでしょう。

 しかし、それで良かった時代は過ぎ去りつつあるように感じます。我々が普段見ているITの進化は「1次的な変化」であり、それが引き起こす「2次的、3次的な変化」にも目を向ける必要がある時代になったと思えるからです。「にも」と書きましたが、今後はそちらの方が重要かも知れません。

 1次的変化や2次的変化とは、どんなことでしょう?Wikipediaの創設者の一人であるJimmy Wales氏は、5月に開かれたあるITカンファレンスで次のように説明しました(http://it.impressbm.co.jp/articles/-/12339)。「米国では1956年から91年にかけて州間高速道路が整備され、人や物の流れを変えた。これが1次変化である」。高速道路網によって鉄道や宿泊業などが大打撃を受け、何らかの変革を余儀なくされたわけです。

「一方で新たな業態が誕生した。(ハンバーガーチェーンの)マクドナルドである」。根拠としてWales氏が挙げたのが図。高度な物流網の整備と、全米を網羅する巨大チェーンとなっていったマクドナルドの成長の軌跡が一致しています。それだけではありません。マクドナルド(および類似業態)の誕生は酪農や農業生産のあり方、雇用形態などを変えていきました。これらが2次的変化です。

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 高速道路網をインターネットやデジタル機器に置き換えるとどうなるでしょう?IBMやHPなど既存のICT産業が大変革を迫られていることが1次変化です。一般企業からすれば対岸の火事であり、せいぜい最新のICTをビジネスや事業に取り込めばいいように思えますが、早晩、それだけでは済まなくなります。インターネットやデジタル機器に最適化した新業態が生まれてくるからです。

 例えばQuirky(https://www.quirky.com/)という企業があります。同社はソーシャルで多くの声を集めて電化製品や日用雑貨品を企画し、製造し、販売もこなします。お客は設計者であり、あるいはデザイナ、販売のプロモーターでもあるという事業モデルです。消費者を巻き込む点が何よりもユニークです。

 タクシーを配車するUber、空き部屋の貸し借りを仲介するAirbnbも、デジタルネイティブな企業の例。英国のMVNO事業者であるGiffGaffはソーシャルを使ってサポートや販売を顧客自身に委ね、通話料を下げつつサービスを高水準に保つことに成功しています。これらは既存の企業にとっては、品質や価格だけでは対抗しにくい競争相手と言えるでしょう。

 当然ですが、これらはほんの一例に過ぎません。高速道路やマクドナルドの時代には相当の資本が必要だった起業は今、グッと簡単になりました。独自のアイデアを手に続々と新興企業が生まれる流れがあります。その一部は成功を収め、Amazon.comのような存在になる可能性があります。企業はICTの進化が引き起こすこれらの2次的変化--新業態の誕生や成長--に対処する必要があるのです。

 では企業の中で誰がそれを担うのでしょうか?米国ではCDO(Chief Digital Officer)であるとも言われますが、日本ではやはりCIOでしょう。既存の情報システムをマネージしつつ新たなICTを生かす。同時に新たなICTを生かした自社ならではの破壊的事業モデルを立案し、推進する。21世紀のCIOには、そんな役割が求められていると考えます。

以上

田口 潤
IT Leaders編集主幹
インプレス