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「持たないIT」が企業の活力を生む

更新: 2015年11月1日

 企業の持続的な成長・発展をICT技術で支える。あるいは牽引する--情報システム部門の存在目的です。当然のことと言えますが、変化の激しい今日の社会・経済環境の中で、本当に実践できているでしょうか。ICTに関わるどんな活動が、企業の競争優位性の確立や強い企業に繋がるのでしょうか。筆者は最近、このようなことをよく考えます。

 プロジェクト企画に際しても同じです。「この対応策(戦術)は、最終目的(戦略)に結びついていますか?」、「戦術と戦略を取り違えていませんか?」。このような問いかけを常にプロジェクトメンバーにするよう心がけています。

 さて、この話が本コラムのタイトルである「持たないIT」とどう結びつくのでしょうか?弊社のクラウド対応についての目的の変化を考察・紹介しながら、紐解きたいと思います。筆者が所属する大和ハウス工業はグループ会社を除き、昨年12月にすべてのシステムをクラウド環境に移管しました。その活動を振り返ると、クラウドに移管する目的がプロジェクトの推進とともに変化していることに気づいたからです。

 話はクラウドという言葉が登場して間もない2006年頃に遡ります。当時、情報共有サーバーのリプレース・プロジェクトにおいて将来増加する情報量を見積もれず、次のリプレース時期まで大丈夫なシステム規模を算出できない問題に直面しました。解決策として考えたのが、必要に応じてシステムの増強を行うオンデマンド型のサービスです。複数のベンダーに打診した結果、現在のSCSKから「やる」という提案をいただきました。

 これを1つのきっかけに、弊社のクラウド戦略がスタートしました。例えば2012年4月に導入した会計・人事システムのリニューアルです。2009年年12月にSAP ERPへの移行を決定したのですが、既存の会計システム環境のサーバー・リプレースが2010年に迫っていました。SAPの前倒し稼働は現実的に不可能でしたし、わずか2年のためにサーバーを入れ替えるIT投資も選択できません。

 検討のうえで旧システムと新システムの環境の共存を図り、旧システムの役割の終了とともに新システム環境への移管がスムースに行えるクラウド環境を使って乗り切りました。このような柔軟なシステム移管の実現は、クラウド環境なしではかなり難しいテーマだったと思います。2010年頃には、ほかの業務システムのクラウド移管も実施しました。クラウドの利用によってインフラ管理の負担が減り、企画など本来業務に要員の多くの時間を割けるようになったのです。

 IT予算や時間の制約をクリアするためにクラウド環境にシフトを行ってきたわけですが、結果としてみると大きくなりがちな初期投資をランニング化できました。経営におけるインパクトを軽減できるメリットはかなりのものです。加えてクラウドならITの進化とともに同等のコスト以下で、よりよい環境に切り替えることも可能になります。費用を増やさずに次のチャレンジの可能性が広がったと考えています。

 クラウド化は、こうした導入時点の効果だけでなく、システムをリプレースする際に大きな力を発揮することにも気づきました。2010年にクラウドに移行した業務システムや会計システムではOracle DBを使っていますが、データ量の増大やシステムの肥大化により決算時のレスポンスに問題が生じました。メモリーの増強などクラウドのメニューで可能な対応はしていましたが、根本的に改善できなかったのです。

 そのようなときに Oracle社のExadataのクラウドサービスがリリースされました。リプレース時期ではないこともあり、オンプレミスであれば導入検討すらしなかったでしょう。しかしクラウドで提供されるとなれば話は別です。2013年から2014年にかけてコストアップすることなく、複数のシステムを最新のExadata環境に移行できました。

 このように「IT環境を持たない」ことは「最適な環境をタイムリーに入手できる」ことと等価です。これがクラウドのパワーであり、大きな利点だと考えます。もちろんクラウドに限らず新しいICTにはリスクが伴いますし、すべてが利点ばかりとは限りません。しかし利点が問題点を上まわるならチャレンジすべきです。

 冒頭で企業の持続的な成長・発展をICT技術で支えることが、情報システム部門の存在目的であると書きました。そのためにクラウドファーストはもとより、最新のICT技術への取り組みに積極的にチャレンジする。チャレンジするためにも、IT環境を持たずに身軽になる--。限られたリソースを前提に信頼される情報システム部を目指すにはそうしたことが欠かせませんし、それが活力を生み出すと考えています。

大和ハウス工業株式会社
執行役員 情報システム部長
加藤 恭滋