cio賢人倶楽部 ご挨拶

オピニオン

2016年、IT活用でイノベーションに挑戦したい

更新: 2016年1月1日

皆様、明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願い申し上げます。
 
 さてバブル崩壊後の低成長(そして衰退)を端的に示す言い回しに、“失われた20年”という言葉があります。数年前はテレビや新聞、講演会などで語られたので、ご記憶の方も多いでしょう。今ならさしずめ“失われた25年”でしょうけれど、最近ではそういう言葉は聞きません。なぜでしょうか?

 日本でも世界でも、自然災害やテロなど様々な出来事が頻発する中、「なんとかやっていける日本はまだマシ」といった思いがあるのかも知れません。あるいは「バブル崩壊前のイケイケは夢にすぎない」、「お金ははなくても日々、楽しく暮らせればそれでいい」といった達観した境地に至ったのかも知れません。

 実際、急ピッチで進みつつある少子高齢化という逆風の中で、株価は2万円近辺に戻りました。一部の大企業は過去最高の業績を上げています。年末のイルミネーションも、それは美しいものでした。非正規雇用が4割に達し、国債発行残高が1000兆円を超えて尚増加しているといっても、企業倒産が相次いだバブル崩壊後の時期よりも、はるかにマシに思えます。

”負け犬根性”に陥っていないか?

 しかし筆者はそんな楽観的な気持ちにはなれません。本コラムはCIO賢人倶楽部からIT責任者や担当者の方々に発信するオピニオンですので、ITに絞って話を続けましょう。皆様がご存じの通り、失われた20年”どころか黎明期から、日本のIT業界は製品や技術、サービス、ビジネスモデルなどほとんどにおいて“輸入超過”という、負けの状態を余儀なくされてきました。

 貿易バランスは全てではありませんが、ITにおける価値の発信と価値の受領との差は明らかにずっと長くマイナスです。将来展望も鑑みて質的な差を考慮すれば、深刻度は一層高まると言わざるを得ません。私の知る範囲では、例えばMIJS(Made in Japan Software Consortium)という団体がソフトウェア製品やサービスを世界に発信・展開する活動を行っていますが、奏功しているとは言えません。

 ひるがえってユーザー企業はどうでしょう?IT活用でビジネスや事業競争力を高める、圧倒的な効率化を実現する、新しい事業やサービスの創出に貢献する、というITへの期待がある一方で、現実はCIOやシステム部長、およびIT部門の存在意義が問われているという危惧さえ耳にします。“不要論”が言及されるほどのピンチでもあります。

 定量的な面でも、ダウンタイムの少なさは世界に誇れる水準だとしても、“ホワイトカラーの生産性は欧米の半分”、などのレッテルを貼られてしまっています。「安定運用こそが我々のミッション」、「事業は好調なのでリスクに挑戦する必要はない」などとお考えの方は少数派だと思いますが、存在意義が問われていることを我々は真摯に反省し、何としても“リベンジ”をしていきたいところです。

 話は少し横道にそれますが、筆者の最初の仕事はエレクトロニクス・メーカーの海外営業部門でした。30年ほど前、世界最強だった日本の電機製品を“イケイケドンドン”で販売しました。1987年から1993年の6年間はシリコンバレーに赴任し、また営業という立場ながら製品の企画から設計、販売に携わる、正に醍醐味を味わうこともしました。

 しかしながら今、当時を振り返ると、それはインベンター(発明者の役割)としての活躍ではありませんでした。そうではなく、デプロイヤー(展開者の役割)やオプティマイザー(最適化の役割)であり、これらの面を得意とする日本の産業人の特性を活かした活躍だったと考えるのです。

今年こそITで世界に出ていく挑戦を!

 ちなみにこれらの役割区分は、ジェフリー・ムーア氏の著書「エスケープベロシティー」に記されているもので、5つの力の階層のひとつである“実行力”を実践する役割として規定されています。エスケープベロシティーとは、地球の重力圏から脱出する速度のことです。著者は日本語版に寄せて「企業の将来を過去の引力から解き放つための本であり、より大きな意味で同じ考えを国の将来に当てはめることができるだろう」と読者に呼びかけています。

 勘のいい読者は、横道にそれた理由を気づかれたかも知れません。デプロイヤーとオプティマイザーの役割こそが、今日のIT活用において求められる。これらの力を発揮し、かつてエレクトロニクス産業がそうあったように、IT活用において逆転できるだけのポテンシャルを、我々に十分に持っているのではないか、ということを強調したかったのです。

 では具体的に何をすればいいのか?結論は、もっとイノベーションに挑戦すべき、ということです。新しいIT(発明)を“展開する”こと、“最適化で果実を得る”ことに挑戦するのです。その挑戦を通じて、エレクトロニクスを始めとする日本の製造業が成し遂げた“世界に出ていく挑戦”にもう一度取り組みましょう!と呼びかけたい思いです。このことはIT活用のみならず、日本のIT業界の高度化にも直結します。

 失われた20プラスアルファ年に終止符を打つ鍵は、第一にIT活用の力です。エスケープベロシティーを獲得し、過去のしがらみの重力圏から自らを解き放つ。そのための戦略を学び、実践していくことです。実のところ、ジェフリームーア氏の著書に限らず、多くのイノベーション事例を取り上げ、その戦略を説く米国の書籍は多数あります。クレイトン・クリステンセン氏、クリス・アンダーソン氏など、大変参考になります。

 これらビジネス戦略本の活用と実践においても、それを逆手にとって“日本のリベンジ”としたい。そうできれば、彼ら偉大な著者にとっても“それは面白い事例!だ”ということになるのではないでしょうか。2016年の冒頭を飾るCIO賢人倶楽部のリレーコラムにおいて、私の思いを率直に“オピニオン”として述べさせて頂きました。とりとめもないオピニオンで申し訳ありません。

株式会社トライアルカンパニー
グループCIO
西川晋二