cio賢人倶楽部 ご挨拶

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2030年に向け、我々はどう挑むべきか?

更新: 2016年5月10日

 次の10年の方向性を定めて社内外に向けて発信するのは、多くの企業が実施している活動の1つだろう。筆者が勤務する本田技研工業(Honda)も同じである。2011年に「良いものを早く、安く、低炭素でお客様にお届けする」という2020年ビジョンを定め、その下に 「“何をいつまでにどれくらい」 という目標を設定して事業に生かしてきた。まだまだ先の話だと思っていた2020年も、リオデジャネイロ五輪が終わると東京五輪が視野に入ってくる。2020年が急速に身近になることは間違いないだろう。

 それを見越してというわけではないが、Hondaでは現在、2030年ビジョンの策定にとりかかりつつある。我々IT部門も「全社のビジョンを受けたITのビジョン」という至極当然なことだけでなく、「ITはITとしてのビジョン」を策定することも同時並行で試みている。人工知能や自動運転、ビッグデータなどの言葉を目にしない日はないが、現にこの記事を書いている日の朝刊の1面トップ記事は「I社が共通ポイント事業に新規参入し、ビッグデータ活用につなげる」であり、中面には「V社が100台規模で自動運転車を中国で実証」などの記事もある。一部の企業だけでなく、多くの企業においてITの活用がビジネスの成否のカギを握るようになってきたことを示しており、「ITとしてのビジョン」が必要になるからだ。

 しかし、である。2020年ビジョンを定めた2011年時点では、「日本が長年得意としてきた“ものづくり” 中心から、利用体験価値を提供する “ことづくり” への変革に向け、どのようなサービス提供モデルを確立していくべきなのか?」といったテーマは、それほど話題になっていなかった。2009年に米国で創業した自動車配車サービスのUBER社が、2015年12月時点の自動車関連企業の時価総額で5位に位置する企業になっていると予想した人も皆無に近かったはずだ。それどころか、UBERの存在を知っていた人がどれだけいただろう。そう考えると、2030年にどんな世界が待っているのかを考えることは果てしなく難しい。同時に既存の常識を排した自由な発想を求められる、大変楽しい作業とも言える。

 雲をつかむような議論であることは確かだが、少しでも良い結果を得ようとすると、幾つかの準備というか心構えのようなものが必要になってくる。このコラムを執筆するにあたり過去のコラムを眺めると、当倶楽部の会長が2月のコラムで「時代を見極め、技術を見極めていくにはどうすればいいか?」というヒントを提起されている。要点をかいつまんで言うと、① 関心を持つ、②トレンドを見る、③体感する、④根拠を求めつつ思考する、⑤仮説・検証をする という5項目だった。まさにその通りだと思う。

 Hondaでもこうしたことにチャレンジしている。 1つがこの2月にCIOの肝いりで、2030年頃に部門の中核をなす世代の人を募って“it-Fes” (アイティーフェスと読む)という社内イベントを開催したことだ。ITを活用したアイデアやすでに活動中のプロジェクトの幾つかを広く社内に紹介するもので、「個人や部門のアイデアをより多くの人に提案することでHondaグループの共創を促進すること」を目的にした。

 結果はというと、計10個のブースを設けて経営陣の多くを招待し、また社内から多くの賛同の声をもらうことができた。それ以上に次代のITを担う出展者たちが自ら考え、仮説を立て、何かを探し、体感し、そして発信、訴える機会を得たことが大きな収穫だったと考える。会場の模様をごく一部ではあるが弊社のホームページからご覧いただけるので、興味のある方は是非ご覧いただきたい。
(http://www.honda.co.jp/hondatv/2016/ch-event0318/)。

 もう1つが我々のシステム部門の役割や組織運営体制の構えである。 昨今、ITの役割やITへの期待が大きく変わりつつあることを受け、IT部門の一部もしくは全体を従来の “情報システム部” 系の名称から、”プロセス改革”や”業務改革”“、”ビジネス改革”といった名称に移行・変更するケースがここ数年急増している。事実、当倶楽部の会員企業にも先駆的な事例があるし、システム部門の方とお目にかかると“〜〜改革”系の名刺を頂くことも多い。当然、名前だけではなく、役割も大きく変化するわけだし、すでに改革的な役割を背負っていたシステム部門の場合は「公に新たな役割を宣言した」ということだろう。

 実はHondaでもこの4月に、システム部門の傘下に “ITイノベーション推進室” という部署を新設した。「Hondaが展開する二輪、四輪、汎用製品の各事業と連携し、先進ICTの活用やビジネスプロセス改革に加えて、ビジネスイノベーション機会の創出と推進を担う」 ことをミッションとし、まずはスモールスタートを切ったところである。戦略部門と協創して、”ITとしての2030年ビジョン”検討も先導している。本コラム読者の皆様は2030年をどう読み、それに向けてどのような準備をされているだろうか。ぜひ議論させていただきたいと思っている。

本田技研工業株式会社
IT本部 システムサービス部 部長
柏原雅之