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人工知能(AI)とどう向き合うか

更新: 2016年10月1日

 9月8日付けの日経産業新聞に、新井紀子氏(「ロボットは東大に入れるか」プロジェクトディレクター)の記事が掲載されていました。講演会後の雑談で、「会社の上層部から『なんでもいいからビッグデータを集めて、AIで何とかしろ』と言われて困っている。そんなのは幻想だ、と言ってもらえないか」と依頼されたそうです。このやり取り自体にも、多くの議論すべきテーマがあると思いますが、これを機会に人工知能(AI)について考えてみました。

 まず、技術革新=産業革命の歴史を簡単に振り返ります。18世紀の第1次産業革命、19世紀の第2次産業革命に続き、20世紀にはコンピュータによる第3次産業革命が引き起こされました。その後、コンピュータは通信技術と共に発展を遂げ、1990年代に普及のスピードは一気に加速します。特に1995年に発売されたWindows95と、それに牽引されるように広がったインターネットは、正に情報革命をもたらしました。それから20年。この間の技術の急激な進歩は、コンピュータや通信の普及・利用形態を大きく変えてきました。

 我々情報システム部門はどうでしょうか?1950年代にコンピュータの商業利用が始まるまで、この世には存在しませんでした。コンピュータ草創期はマシンを操作する特殊な技能集団でした。やがてコンピュータ・システムは、様々な業務の効率化を実現するようになります。コンピュータの発展に伴って情報システム部門の役割も大きく変貌を遂げてきました。今もまだその情報革命=第3次産業革命=の只中にいるのかも知れませんが、一方で新たな事業・サービスの創出を期待され、現在は企業経営に寄与する重要な役割を担っていると言えるでしょう。

 昨今の情報技術の中で、ビッグデータ、人工知能、IoTが大きな可能性を持っていることは議論の余地がありません。特に人工知能は3度目の正直となるブームを迎え、大きく発展しようとしています。そして、このような先端技術の組み合わせでさらに生産性を高め、新たなサービスを創造する取り組み=第4次産業革命=が注目されています。

 人工知能はすでに様々な場面で利用されています。ECサイトのリコメンドやiPhoneのSiriなどは身近な例です。また今年3月に世界的な棋士を破った、ディープマインドの「アルファ碁」は大きなニュースになりましたし、アメリカの人気クイズ番組でチャンピオンを破ったIBMのコグニティブ・コンピュータ「ワトソン」も、様々なシーンで活用が進んでいます。発展途上ではありますが、自動運転や自動翻訳での活用も研究・開発が進んでいます。

 このような人工知能の活用は、我々情報システム部門にとって、とても重要なテーマです。これまでシステム化が困難、と考えられていた業務について、もう一歩先の生産性向上を目指すことも可能となるでしょう。あるいは考えたこともないシステムを実現したり、斬新なビジネスを創造することもあるでしょう。情報システム部門の業務分野でも、エンドユーザーの業務領域でも活用分野は広がると思われます。すでに米国の新聞業界では人工知能が記事を作っている事実があります。

 米国の未来学者であるレイ・カーツワイルは、2045年に人工知能が人間を超える”シンギュラリティ”が到来すると予測しています(『シンギュラリティは近い――人類が生命を超越するとき』)。そこでは特定分野に特化した人工知能=弱いAIではなく、「汎用人工知能=強いAI」が実現され、全人類の知性を人工知能が超えるとされています。この未来予測が実現するかどうかの議論には、私のような者の出る幕はありません。

 ただ「強いAI」は、もはやシステムという枠組みや、単なるICTを超越した存在のはずです。従来の法則が通用せず、想像を超えた何かが起こることでしょう。それが何なのか、その時私たちがどのような役割を担っているのか、正直私には分かりません。この段階になると、情報システム部門の枠で捉えられるテーマを大きく超えているように思います。それでも、その30年後に至る道筋は、我々が見極めなければならないのではないかと思っています。

 9月12日に開かれた「未来投資会議」(安倍首相を議長とする官民会議)では、構造改革の一環として、人工知能の活用を柱とする第4次産業革命を梃に、生産性向上を目指すとされました。議論の本格化に伴い、さらに人工知能ブームが後押しされることは間違いありません。なお先の新聞記事の新井氏は、「AIについて思索するのは高尚な趣味になさって、社内のAI活用については理論に通じているデータサイエンティストに任せることをお勧めします」と結んでいます。

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