cio賢人倶楽部 ご挨拶

オピニオン

デジタル化推進のためにCIOが担うべきことは何か?

更新: 2018年9月1日

 最近、欧米企業と日本企業の成長率を比較したグラフを目にすることが多い。例えばトイレタリー用品など一般消費財メーカーであるユニリーバ社は、過去10年の売上成長率が3.8倍に達する。日本の製造業も伸びてはいるが平均すると10年で1.2倍程度であり、年率で見ると横ばいに近い。一体、何がこの差を生み出しているのだろうか。

 もちろん積極果敢なM&Aもあるが、デジタルトランスフォーメーション(DX)も大きな影響があるだろう。何よりもDXという言葉をメディアで目にしない日はなく、この言葉なくして事業成長を語るのは難しい。単にDX推進専門の部門を作ったりIT部門が頑張るのではなく、ビジネス部門が高い問題意識を持ち、IT部門などと一緒になって進めることがDX成功の必要条件と言われる。これを実現している企業を、筆者は「Digitalization Savvy」な企業と提案したい(Savvyは”経験豊かな”、”得意な”といった意味がある)。

 現実には、日本企業においてこれをうまく実施出来ている企業は少ない。なぜビジネス部門はデジタルトランスフォーメーションをリード出来ないのだろうか。筆者は、その理由として欧米企業と比べて日本企業には2つのケイパビリティが不足していると考えている。1つは経営層やビジネス部門のITリテラシーの低さ、特に経営層のITリテラシーの低さである。使用しているPCのパスワード管理を秘書任せにしているとか、情報システムに関わることをIT部門に丸投げするとかといったことだ。

 日本企業だけでなく海外企業においてもそうであるが、部下の社員たちはトップの動きを実に良く観察している。トップがITリテラシを高めないことは、トップが自ら事業成長を放棄していると見られても仕方がない。トップがITリテラシの獲得に本気の姿を見せなければ、社員も本気でITリテラシの向上には取り組まないだろう。ITリテラシの向上なくして、ITの価値や効果を理解することは困難であるし、ITに対して無関心であっては、ITの利活用も号令だけに終わってしまう。

 もう1つはビジネス部門のデータ活用スキルが不足していることである。私見だが、この点は日本と欧米でかなり大きな差があると感じている。欧米では、MBAだけでなく大学のカリキュラムの中に標準的に統計学が組み込まれている。従ってITの専門家ではないビジネス部門の社員であっても、ツールを活用して普通にデータ解析するスキルを持ち合わせているのである。

 これに対し、日本企業では「データアナリストがいない、もしくは育っていないから、当社はデータ解析や活用が遅れている」という認識が罷り通っているのではないか。あるいはビジネス部門は、IT部門がデータ分析の帳票をシステムで出力してくれると思ってはいないだろうか。データを蓄積するだけでは何も価値を産まないのは自明であり、活用の目的が明確でなければ効果をもたらさないことも、賢明な読者であればお分かりのことと思う。

 またデータ活用スキルを持った社員が少ないよりも多い方が良いに決まっている。この環境を改善していくために、本当は高校や大学で文系理系と無関係に統計やデータ分析を教えてくれるといいが、早期に実現されることは期待できない。であれば日本企業は、社員の新人研修やマネジャー研修に統計やデータ分析の基礎を組み込んでは良いのではないかと筆者は思う。

 さて、これらITリテラシやデータ活用のケイパビリティ不足に関して、CIOに責任はないのだろうか。答えは否である。現在の状況に陥った責任は、経営者やビジネス部門にこれらの重要性を説明し切れてこなかったCIOにもあると筆者は考える。社風や企業文化といった「過去の経験」から早々に説得を諦めてしまい、IT人財不足を憂いているに留まってはいないだろうか。

 今、世界は天候など自然の動きひとつを考えてみても「過去の経験は通用しない」というのが、新たな「常識」になりつつある。CIOも過去の経験を一度捨てて、IT人財の不足を口にすることをやめ、経営者とITリテラシを向上させる会話を始め、そしてビジネス部門がデータを活用するためのプラットフォームの整備にチャレンジしてほしい。日本で将来を見据えたDigitalization Savvyな企業が増えていくことを期待して止まない。

味の素株式会社
情報企画部長
古川 昌幸