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DXでも「理念なき行動は凶器、行動なき理念は無価値」は真理だ

更新: 2020年2月1日

5G×IoTによって、GAFAが占有してきたインターネットの世界で場面転換が進む可能性がある。GAFAは検索やソーシャルSNS、ECなどで得るデータから利益を上げているが、これからは製品・サービス・業務・社会などのモノやコトからのデータの利用競争の時代になってくる。大量のデータ処理は遠隔クラウドからデータ発生元の現場へ移り、集中から分散化へとすみ分けが進むと思われる。

 エッジコンピューティングやフォグコンピューティング、ブロックチェーン、ローカル5Gといった分散処理技術も進化している。モノやサービスとのかかわりで日本が得意としてきた実業の現場が、新たなデジタル競争の場となりつつある。つまりDXの取組みの遅れを挽回するチャンスの到来である。トヨタ自動車は、製造業からCASE戦略でモビリティのサービス企業へと事業基盤を変化させようとしている。自らの製品や事業の強みをプラットフォームとして提供を始めている日本企業もいくつか存在する。

 ただ、日本の状況を俯瞰してみると違和感が否めない。日本企業のDXを阻害しているのはレガシー資産の存在だという「DXレポート」、現状の仕事のやり方を変えず時短だけを求める働き方改革、目の前の煩雑な業務を自動化するRPAの取組みなどが、違和感の理由だ。RPAの導入は世界でも日本がトップレベルだと聞くと、なおさら、「皆、従来からのビジネスモデルの効率化による延命を図っている」のではと心配になる。「日本の生産性が低いのは、イノベーションを技術革新と誤訳したために単なる新技術の適用に終わって、本質のビジネスモデルの見直しになっていないから」という議論を思い出す。

 一例が”ハンコロボット”である。書類をRPAで処理する前後に印鑑が必要なので、ハンコを押す作業を産業用ロボットで自動化するアレだ。これをみて思うのは、ハンコ文化への困りごとに対するデジタル化の答が、どうやってハンコの必要をなくすかという本丸の話でなく、ハンコをそのままに作業を軽減させることが主眼になっていること。それが改革の第一歩ならまだしも、とりあえずのゴールだとすると日本のDXの未来が心配になる。

 本質の議論でいうと、『PDCAサイクルではイノベーションは無理で、答えやゴールが不明確な時代では、OODAループにすべきだ』という話をよく聞く。PDCAサイクルは品質改善手法の延長上で経営の質の向上を図るマネージメント手法、対してOODAループは思考法であり、両者を比較することに大した意味はない。スピードが求められる時代に、計画の確からしさに縛られるPDCAサイクルよりは素早く判断し実行していくOODAループの方が適している、といった程度のことである。

 しかし重大な違いもある。【見る⇒わかる⇒決める⇒動く⇒振り返る】を繰り返すOODAループでは、何を見るかは当然、見たことをすぐに理解し、自ら決定し、実行するためのスキルやノウハウや感性を持っていることが前提だ。この前提を満たしている組織は自律的に行動でき、それがゆえにPDCAサイクルでの統制的な組織よりもスピードで勝る。だとするとPoC(概念実証)ループに陥り、なかなか実行の意思決定が出来ない組織(人)が、その体質のままOODAループを実践しようとすると、どうなるか?

 それは「理念なき行動は凶器、 行動なき理念は無価値」(本田宗一郎)を地で行く行為であり、もぐらたたきや出たとこ勝負になって仕事の質の低下を招いてしまう。言い換えると、OODAループの本質は手法を適用するかどうかの問題ではなく、組織体質や企業風土の問題なのである。働き方改革やRPAの導入も全く同じ。だからこそCIOには継ぎ接ぎや部分のデジタル化ではなく、夢の実現やビジョン達成の本質を提示し、組織の共通価値とした上でのデジタル戦略が求められる。

オフィス有吉代表(元・本田技研工業CIO)
有吉 和幸