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今求められるデジタル人材とは?そしてマネジメントの役割は?

更新: 2020年10月1日

 デジタル人材の確保が重要と言われているが、どんな人材が必要なのだろうか、そしてマネジメントはどうあるべきか?この問いに対し、筆者なりの回答を示すために少し回り道をしよう。

 ここ数年、DXを進めると言うと「AIを使って何をしようか?」、「ブロックチェーンをどこかに使えないか?」、しまいには「共通データベースを作って・・・」といった話になることが度々ある。DX担当部署はその期待を背負って何らかのプロジェクトを開始し、PoC(概念実証)を実施するのだが、本格展開には至らない。このような、いわゆる”PoC貧乏”に陥る事例を良く耳にする。

 その理由は、Why(目的)を不明確にしたまま、How(手段)に走ってしまった結果ではないだろうか。筆者は、Whyを忘れないために「デジタル変革とはビジネス変革することだ」と説いて回っている。もちろんテクノロジーは重要だが、目的をしっかり持つことはもっと重要だ。

 しかし、それだけでは十分ではない。ビジネス変革を進めるには、バリューチェーンを俯瞰して全体を改革する必要があるのだが、そうではない事例が多いことだ。なぜかというと、多くの企業、特に大企業では長い間、完成されたビジネスモデルの上で役割分担して効率を追求する仕事をしてきた。その結果として、自分が担当している商品・商材なのにサプラチェーンの物流や商流を全部語れる人が非常に少ない。だから全体を俯瞰することができないのだ。

 これについては実体験がある。10年ほど前、筆者が新製品の企画からマーケットインまでの期間を短縮するプロジェクトを担当した時、関連部署が多岐にわたり、現状整理すらままならないで頭を抱える羽目になった。この時、課題解決に大活躍してくれたのは、ベテランのIT担当者だった。彼はエンドユーザーに寄り添って意見を聴き、自分でコードを書くなどして多くのシステムを手がけてきた。

 実際、彼はコンピューター導入創成期から様々な業務システムの導入を率いて来たシステムエンジニアで、部門・会社を跨った全体の業務の流れを誰よりも把握している人物だった。IT子会社の設立ブーム前の世代に属する超ベテランだが、今でもコードを書いている本物のデベロッパーである。

 今、彼のように頼りになるITエンジニアが事業会社にどれだけいるだろうか?テクノロジーがコモディティー化するスピードは速い。最先端のテクノロジーを追い求めるよりも、顧客に寄り添った発想ができるビジネスマン、ビジネスに寄り添ったデザインができるITエンジニア、マーケットを創造できる研究者がチームになって、コモディティー化した安価なテクノロジーを使って事業を創造するーーこんなDXを目指したいと筆者は思う。

 ここで冒頭の問いに戻る。デジタル人材をDXを推進するための人材とするならば、前述したITエンジニアのように、確固たる自分の専門性に加え、ビジネス感覚を持ち、顧客(ユーザー)に寄り添える人材ではないかと思う。具体的には、
・顧客(社内・外)の課題を詳しく洞察する力
・事業全体の構造を理解、再構築する力
・テクノロジーに明るい(技術動向や可用性など)
・そして秀でた一芸: エスノグラフィー、デザイン、事業開発、エンジニアリング、データサイエンス・・・
といった素養、スキルを備えた人材である。

 一方、マネジメントの役割も変わる必要がある。改革を進めるためには、リーダーが明確なビジョンを発信し、改革文化を醸成していく事が求められる。定型的なルーチン業務の徹底した自動化を進め、従業員を定型業務から解放することも欠かせない。これはリソースを捻出するだけではなく、テクノロジーで業務改革していくことを浸透させる意味合いも大きい。その上で、秀でた一芸を持つ人材を目的に応じてバランス良くチームアップしたダイナミックな組織作りと、その組織の動きをスポンサーとしてバックアップすることである。

出光興産株式会社
執行役員CDO・デジタル変革室長
三枝 幸夫