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童話「赤ずきん」が教える教訓

更新: 2022年5月1日

 グリム童話「赤ずきん」を知らない人はいないでしょう。おばあちゃんのお見舞いに行った女の子が、おばあちゃんになりすましたオオカミに食べられてしまうものの、通りかかった猟師に助けられ、逆にオオカミを懲らしめる話です。悪いオオカミを懲らしめるところに関心が向きがちですが、物語が教える本質はそのような目に遭ってしまった赤ずきんの行動に対する戒めの方だと思うのですが、いかがでしょうか。

 話を赤ずきんが出発する前のお母さんとの会話に戻して、検証してみます。赤ずきんはお母さんから以下のことを言われ、約束して家を出ました。

・目的は病気になったおばあさんの家にお見舞いに行き、パンと葡萄酒を届けること
・道草をしてはいけないこと
・オオカミに話しかけられても無視すること

の3つです。

 赤ずきんのミッションは確実におばあさんに届け物をすることでした。しかし道中に声をかけてきたオオカミの話を聞き、花を摘んでいくとおばあさんがもっと喜ぶという話を採用し、届け物をするという最大の目的のプライオリティを下げてしまうといった過失を犯してしまいました。さらにオオカミと会話をしてはいけないという母親との約束を反故しています。これは契約違反ですよね(笑)。

 極めつけはオオカミの質問に素直に答えてしまい、おばあさんの家の場所やおばあさんが病気であることなどをディスクローズしたことです。明らかに情報セキュリティ上、問題のある行為です。つまり赤ずきんの話はミッションをおろそかにし、契約を履行せず、情報セキュリティに対する意識の低い人は必ず報いがあるという戒めであるように思えるのです。

 そんな赤ずきんにも挽回のチャンスがやって来ます。おばあさんの家に着いた後のおばあさんになりすましたオオカミとの会話です。赤ずきんは、おばあさんの声や耳の形状、そして口のサイズと次々に違和感をおぼえていきます。残念なことにこの気づきに対して自分で判断しようとせず、悪意のあるオオカミの言い分を聞いてしまいました。これだけのヒントがありながら、思い込みと自己判断からの逃避により彼女は危機を回避できなかったのです。残念で仕方ありません。

 さて私たちは環境変化の激しいマーケットの中にいます。赤ずきんと同じく様々な危険が潜む先が見えない状況です。ミッションを遂行しようとしても想定しない様々なやり取りがあったり、要求があったりします。システムによる自動化が進めば進むほど、マニュアルに書いていないことを人が判断しなければならないケースは多くなります。お客様向けサービスも同じで、人が行っていた顧客対応の業務をインターネットやチャットボットなどの仕組みで代行させるケースが増え、人は判断を求められるケースを担当することになります。

 そんなシーンで、私たちが赤ずきんと同じ過失を犯さないようにするには、どうすればいいでしょうか?答えはより多くのデータを活用することだと思います。好例が端末やPCに残る人が操作をした履歴、つまりログです。チャットボットにもお客の様操作ログが溜まっています。ログデータという非構造化データはエラー時の解析などには使われますが、もっとビジネス活用をすべきではないでしょうか。

 クレームのレポートを通じてお客様の声を分析する動きは活発ですが、お客様の操作が溜まったシステムの声を聞く姿勢はまだ不足しているように思います。こんなふうに考えていたら、ようやくログデータから業務実態を可視化するプロセスマイニングやタスクマイニングを活用する動きが増えてきました。プロセスマイニングを実践すれば、トランザクションデータだけでは認知されない『赤ずきんちゃん、道草の時間が長すぎます。』ということを、可視化してくれるかもしれませんね(笑)。

J .フロント リテイリング株式会社
グループデジタル統括部 チーフ・デジタル・デザイナー 
野村 泰一