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富士通メインフレーム終了から思うこと

更新: 2022年6月1日

 富士通が、メインフレームとUNIXサーバの製造・販売を2030年に終了することを公表した(https://www.fujitsu.com/jp/products/computing/servers/mainframe/gs21/topics/fujitsu-3promise.html)。2035年まで保守は続くので、まだ先の話だが、時代の一つの節目だと感じた人は多いのではないか。私自身、前職の化学・住宅メーカーで、20年ほど前に複数台の富士通機で構成された販売管理システムをオープンシステムに移行するため、Javaを使って再構築した経験がある。その流れの一つの終着点だと感じている。

 私が社会人になった1980年代後半はどうだったかと振り返ると、業務や地域ごとに費用を考慮しつつ、複数メーカーの異なるメインフレームを導入。必要に応じて専用線網で接続し、その上で会計や販売管理などの基幹業務システムを内製して構築・運用していた。当時、基幹系のITインフラはこれらメインフレームと米IBMが提唱したSNAネットワークが基本であり、情報システム部門の主業務の一つはITインフラを構築・運用・保守することだった。

 一方、技術部門や製造部門ではより新しい技術を使っており、サーバーはUNIX機、ネットワークはTCP/IPベースのJUNETでWANとLANを構築。主に技術部門が運用・保守していた。例えば住宅関連の製造部門では、当時のAI技術であるエキスパートシステムを、プレハブ住宅の間取り図から必要部材を抽出するシステムや工場における工程計画を作成するシステムに組み込んでいた。オフィス業務をサポートするWindowsサーバーも多数あった。こういったシステムは基幹系に対し、技術系や情報系などと呼ばれていた。

 しかし2000年以降、オープン化の流れが加速し、基幹系と情報系という分類があいまいになり、徐々にUNIXを源流とするLinuxが主流となり、独自のOSやCPUを使ったメインフレームはもちろん、メーカー個別のCPUで稼働するUNIXサーバーもフェードアウトしていく傾向が顕著になる。80年代に始まったこの流れが半世紀近くを経て浸透したことを象徴するのが、富士通メインフレームのEOS(End of Service)だろう。

 ここで私が「留意しなければ」と思っていることがある。システムは世代交代しても、企業内のIT文化はそうはいかず、過去からのメインフレームやUNIXの流れが残っていることだ。それゆえ、新しい取組みとして議論されることが多いDX(デジタルトランスフォーメーション)だが、歴史のある企業においては過去の情報系と基幹系の体制を振り返り、自社の企業文化に合わせた対応案を考えることが、DXを一過性の取組みとしないために重要だと考えている。

 例を挙げると、人材育成において幅広い知識と専門分野を持つ「T型人材」であるべきとの意見がある。これを自社プロセス知識としての基幹系と情報技術としての情報系というふうに考えるべきではと思う。DXで求められる人材は、新ビジネスを考えるための自社のビジネス知識と、データ活用に代表されるデジタル技術を求められる。これを組織に当てはめると、情報システム部門と研究開発や製造部門などの技術知識の融合した「T型組織」で実現できる。

 それをせずにDXの新しい面だけをむやみに強調すると、それに対抗しようとする人や部署と戦うことになる。”チェンジモンスター”と呼ばれる人たちのことで、この記事(https://www.bcg.com/ja-jp/change-monster)に詳しく書かれている。特に頻繁に遭遇する「タコツボン」と「カコボウレイ」と戦うためには、過去からの経験と継続性をうまく活用しなければならない。顧客から利益という報酬をもらえるように、である。

 我々が有するITに関する知見は、技術面だけに限らない。チェンジモンスターや「人月の神話」など人とITの交接点に対しても長期間の蓄積がある。技術面だけでなく、新しいテーマに対する人の反応についての蓄積についても整理し、若いメンバーと共有していくことが、DXを支え、前進させる重要な要素だと考えている。

キッコーマン株式会社 システム戦略部長 
小笹 淳二