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「こんな日本に誰がした!」・・・・・崖っぷちニッポンの個人的考察

更新: 2022年11月1日

 「こんな日本に誰がした!」とは、何かの折にインプレス IT Leaders 編集主幹の田口 潤氏から聞いたのですが、それからというもの、この言葉が耳から離れません。聞くことだけが得意の何だか頼りないリーダー、止まらない円安、貿易赤字の拡大などなど、ネガティブな要素の枚挙に暇がない今日の状況もあって日々、思い起こします。

 「2025年の崖」は経産省が情報システムの問題を指摘するのに使ったフレーズですが、システムに限らず、今の日本がまさに崖っぷちに立っているように思えてならないのです。何故、こんなことになったのか、どうしたら打開できるのかを私なりに考えてみます。

今の日本の現状と課題は?

 2022年10月、為替レートはついに1ドル150円を突破し、1990年以来の円安になりました。つまり日本売りです。原因はアメリカとの金利差と言われていますが、果たしてそれだけでしょうか?10月21日付けの日本経済新聞は「じりじりと円安が進んだのは、円売りの裏側に日本経済の構造的なもろさがあるためだ。日銀によると、日本の潜在成長率は32年前の4%台から足元で0%台前半にまで下がった」と書いています。では、そのような日本売りの状況に陥った構造的なもろさは、何が原因でしょうか?

 デジタル庁の統括官である村上敬亮氏は「人口減少が大元にある」と指摘しました。2008年の1億2808万人をピークに2030年には1億2000万人を切って2050年は1億人台に、2100年は高位推計で7000万人台、中位推計なら5千万人台まで減少するという予測です。しかも高齢化率(65歳以上が全人口に占める比率)は、2021年の28.9%から2053年に38%台にまで増加していきます。

 人口増加が前提だった昭和時代の常識が通用しない流れの中で、需要と供給のバランスが変わり、需要が供給に合わせる経済から、供給が需要に合わせる経済へ変わっていくと村上氏は説きます。もう一つの側面として、30年前から日本の名目GDP、および一人当たりの名目GDPは、ほぼ横ばいです(資料1、2)。同じ時期にアメリカのGDPは4倍、高度成長を遂げた中国は60倍になっています。

資料-1(出典:世界経済のネタ帳サイト)
資料-2(出典:世界経済のネタ帳サイト)

 GDPと労働生産性はほぼ連動してますので、この間、日本の労働生産性もほぼ横ばいに推移しています。賃金も労働生産性に連動しますから、必然的に賃金も横ばい。1993年には世界3位だった日本の一人当たりの名目GDPは、2021年に世界27位まで後退しています。

資料-3(出典:世界経済のネタ帳サイト)

もう一つ、労働時間に関するユニークな考察を紹介しましょう。法政大学の小黒一正教授によるもので、日本の平均労働時間を1990年を1.0として今も変わらないと仮定すると、2019年の1人当たりの実質GDPは日本1.58、アメリカ1.55、イギリス1.52となり、両国を上回ります。ところが実際の平均労働時間に基づくと、日本は1.28で最下位になる、というものです。

(出典:東京財団政策研究所サイト、2022-2-15記事:R-2021-055)

どういうことかというと、30年前(1990年)の年間平均労働時間と2019年のそれは日本が2031時間→1558時間、アメリカが1764時間→1731時間、イギリス:1618時→1367時間と、日本の労働時間は大きく減少しました。労働生産性が上がらないまま、労働時間が減少すればGDPは伸びないのは当然ですし、いまやアメリカ人の方がより長く働いています。

 昭和の時代は日本の労働生産性の低さを残業と根性でカバーしていたのが、その後の時短&働き方改革の時代においては通用しなくなったという事実が浮き彫りになったとも言えます。だからといって、今さら「残業しろ」は通用しませんし、令和の若者にはそっぽを向かれるだけでしょう。結局は根本的課題である労働生産性を上げていくしか、一人当たりのGDPを向上させていく術はないと考えられます。

失われた30年とは何だったのか?                                                    

 この30年の間、世界は大きく変わりました。インターネット環境が普及して以降、世界中の価値観が変化するデジタルの時代に入ったことは、誰も否定できないでしょう。GAFAに代表されるアメリカの企業が世界に影響を与え、巨大なマーケットを背景にした中国がそれに続き、流れに乗るべくインドなどアジア諸国や北欧など欧州諸国、イスラエルなども頑張っています。

 同じ時期、日本は何をしていたのでしょうか?ソニーのウォークマンのような世界中の生活に影響を与えるメガヒットはほとんど産みだせなかったと思います。バブル崩壊以降、日本企業の中に画期的な発想を受け入れ、育てる素地が衰えてきたからではないかと感じます。

 イノベーティブな何かを企画・開発したとしても、バブル崩壊後の冷え切ったビジネスマインドのため、リスクのある投資を控えるような風潮がそれです。バブル期の過剰な信用供与に懲りた金融機関の姿勢が企業を締め付け、それに追い打ちをかけた面があるかも知れません。日本全体が「羹(あつもの)に懲りて膾(なます)を吹く」状態になり、今も続いているように感じるのは私だけでしょうか?

 ITの利活用でも日本は遅れを取りました。一例がSAPに代表されるERPです。欧米企業がこぞって導入する中、日本でも会計などのERP化は進みました。しかし内実はビジネスの効率化に向かうのではなく、今までの業務に合わせた莫大なアドオン開発をベンダーに外注することに大枚を叩いてきました。ベンダーにとってもその方が儲かる面があったからです。

 そうしたことの結果として、日本独自の2次受け、3次受け、n次受けという多重下請けの人月商売が定着していったと考えることができます。この下請け構造も問題ですが、それ以上に企業の情報システム部が自社のビジネス構造を深く掘り下げる力を低下させてしまったこと、先輩たちが卒業していき、情シスに自社のビジネスへの高い見識を持った人材が極めて少なくなったことに、危機感を感じます。

 人材の問題は経営層も含めた事業の現場も同じかも知れません。かつては新たなビジネスモデルをシステム部と一緒に構築しようという意欲を持った方々が弊社でも多くいました。バブル崩壊以降には経営層がシステムを敬遠して情シスに丸投げし、情シスはベンダーに丸投げする傾向が強まった気がします。これはシステムの話ですが、前述したように本業の領域でも同じことが起きていたのかも知れません。

現状を打開するには、、、、、

 このような状況を打開するにはどうしたら良いのでしょうか?村上氏は「ビジネスモデルを見直すなどして組織や個人の労働生産性を高め、一人当たりのGDPを向上させることが欠かせません」と指摘します。それは個人の賃金を上げていくことにも繋がります。そのためには、どう考えてもITの力が必要であり、DXの推進は自明の理です。すなわち日本全体が本気でDXを進めるしか道はなく、個々人はDXに対応すべくリスキリング(学び直し)していかざるを得ないとも言えます。長々と書いてきましたが、本コラムの読者諸兄姉には当たり前の結論になってしまいました。

 しかしながら読者諸兄姉はDX推進の難しさを感じ、また直面されているのではないでしょうか。なぜかと言えば、スイスの国際経営開発研究所(IMD)の世界デジタル競争力ランキング2022において日本は2021年より順位を1つ下げて63か国中29位になりました。内訳をみるとデジタル・テクノロジーのスキルは62位、ビッグデータ・アナリティクス活用は63位(ビリ)、またデジタル競争力に関する国際性および企業の俊敏性もビリであり、東南アジアやアフリカの国々より低いという極めて残念な状況です。

 逆に引き上げているのは、ワイヤレスブロードバンド利用者数やソフトウエア著作保護など。こんな状況であるがゆえに、DXを推進し組織の労働生産性を高める任を負う読者諸兄姉の苦労は並大抵ではないはずですし、これに前述した、企業の冷え切ったビジネスマインドや失敗を許容しない風潮が加わります。挑戦やチャレンジを社是やスローガンにしている組織は多く見受けられますが、実際にチャレンジを許容している組織は、一体どれくらいあるでしょうか?

 ことは1つの企業内に閉じません。ビジネスモデルを変えることは、世の中の構造を変えていくことにつながります。今の社会構造において既得権益を持っている企業や組織・役人・政治家は、表立って反対はしなくても面従腹背。少なくとも積極的に協力はしないし、折あらば足を引っ張ろうとする‥。日本にUberなどが進出できないのはその表れでしょう。

 これらを跳ね除け、前進するにはかなり骨が折れます。例えば今の企業の人事制度では、DXから溢れ出た人々を解雇するのは容易ではありません。この問題に対処するセーフティネットの構築は個別の企業や業界では限界がありますから、政府がDXに向けた社会全体のリスキリング対策を成長戦略ビジョンの一環としなければなりません。しかし政府は、転職者や副業をする人を受け入れる企業への支援制度の新設や働き手のリスキリングに取り組む企業への助成拡大などを打ち出していますが、具体策は企業に丸投げに見えます。

 こういった状況を乗り越え、DXを推進してくことは冒頭で言及した日本売りに対処することに繋がり、海外の投資家に響く強いメッセージともなります。それには一本筋の通った政策メッセージを発信する必要があり、総花的ではなく、全てが成長戦略に繋がる総合的なビジョンとそれぞれの具体案を政府が早急に作成することを期待します。こうした点で、前出の村上氏や和泉憲明氏(商務情報政策局情報経済課ア一キテクチャ戦略企画室長)など経済産業省のDX推進派の方々には、ぜひ期待しますし、頑張って頂きたいところです。

結局、こんな日本に誰がした、、、、、                                   

 と、これまで他力本願を並べ立ててきました。しかし我々自身はどうでしょうか?この失われた30年、主戦として働いてきた方々は私を含め、読者諸兄姉の中にも多数いらっしゃるのではないでしょうか。詰まるところ、ぼちぼち定年が見えてきた、あるいはすでに迎えた我々の世代(40代後半から60代)が、実は最大の戦犯と言えなくもありません。ならば自分たちがやらかしてきたことに対して、我々はケツを拭く責任があります。

 このコラムの読者諸兄姉はシステムに関わっている方が多いと思いますが、進化し続ける今日のデジタル技術は、我々が培ってきたものとはかけ離れています。しかし培ってきた経験、とりわけ課題解決に関わる知見や見識は、今も十分に通用することも確かでしょう。若い人たちが新たなチャレンジに七転八倒しているのなら彼/彼女らの壁打ち相手になるなどして、ぜひ手を差し伸べましょう。

 少なくとも単なる障害にしかならない老害にはなりたくありませんし、なってはなりません。そのために進んでリスキリングに挑戦し、学びなおしに年齢は関係ない事実を示しましょう!例えばアジャイル開発にしても、ウォーターフォール開発でのプロジェクトマネジメントを知っているからこその気付きがあるはずです。我々が積極的にアジャイルに関わり、挑戦すればアジャイルを進化させる方法論が見つかるかもしれません。

 AIにしても同じです。Pythonで自らコードを書くことはなくとも、データ分析の中で、我々が培ってきた多くの知識や経験、あるいは人間関係を最大限利用することで、通り一遍の解析では見えてこない部分が見えてくることがあるはずです。より良いAIのモデルを作るために与えるパラメータの選択は、その分野の経験が大きくものを言うからです。それにはある程度の専門知識が必要になるので、我々がリスキリングし、データ分析やAIの知識を身につければ大きな戦力になり得ます。

 そのためには七転び八起きのムードを醸成していくのが不可欠です。少なくとも、我々世代はその気持ちを忘れずに周囲と接していく覚悟を持ちましょう。

オッサンよ、大志を抱け!!!あっ、失礼!オバハンもでした。。。

ユニチカ株式会社 
情報システム部 シニアマネージャー
近藤 寿和