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CIOが知っておくべきデジタル技術、空間情報基盤と「空間ID」とは!?

更新: 2022年12月2日

 1970年代から使われ始めた地理情報システム(GIS)は、1995年に起きた阪神・淡路大震災をきっかけに国レベルの整備の必要性が改めて認識され、関連する地理空間情報および周辺システムの整備が推進されてきました。衛星測位(GPS)の高精度化もあって、政府は2007年に地理空間情報活用推進基本法を制定。これに基づき、地理空間情報を簡単かつ的確に入手・活用できる「地理空間情報高度活用社会(G空間社会)」の実現に向け、2007年の第1期基本計画から現行の第4期基本計画に至るまで、さまざまな施策を展開しています。

 このように説明すると、企業ITからは距離のある話に思えるかも知れません。しかし、そうではありません。昨今のコロナ禍に伴う消費者のライフスタイル/ワークスタイルの変化、それに伴う物流関連の負担増大、さらに言えば地球環境問題や自然災害の深刻化といった社会課題への対応策として、地理空間情報の整備と活用は非常に重要です。今後見込まれる自律運航ドローンや自動運転車の実用化でも鍵を握ります。そこで今回は、地理空間情報を巡る状況とその先にある「空間ID」について説明します。

地理空間情報活用の進展のステップと3次元空間情報基盤の可能性

 地理空間情報の活用の進展は、以下のように大きく5つのステップに整理できます。当然、ユースケース毎に活用されるデータの種類や目的が異なりますので、進展度合もユースケースによって異なるはずですが、おおむねこの5ステップになります。

Step 1   地理空間情報のデジタル化(位置や場所の情報を活用するための基盤整備)
Step 2   地理空間情報の精度向上
Step 3   複数の地理空間情報の重ね合わせ
Step 4   地理空間情報のデータ連携による自動化・メンテナンスの効率化
Step 5   事業・サービスの創出による市場拡大

 Step1と2は地理空間情報の整備段階であり、効率性が重視される段階です。そのためユースケースに関連するステークホルダーが協調して推進しやすいステップです。Step3以降は、取り組みの成果が競争の源泉となり得る傾向が強いことから、各ステークホルダーが差別化要因を見出すべく取り組みを推進する競争領域に位置づけやすくなります。

 一方でStep3の段階に至ったユースケースにおいては、それぞれの地理空間情報同士を連携させる機会が増大することが容易に想定されます。そのために必要になるのが地理空間情報同士の連携を可能にすること、つまり3次元空間上の位置を一意に特定する仕組みの定義です。一意といっても1つの座標のようなものではなく、広がりや構造を持ちます。

 このような仕組みは「空間ID」と呼ばれており、整備に向けた検討が進んでいます。地理空間を特定する空間IDが整備されると、空間IDをキーにして様々な地物・位置の情報を検索・特定したり、何かを自動処理を実現するユースケースが台頭したりするようになります。様々なステークホルダーが所有する地理空間情報同士の連携機会も、空間IDによって持続的に拡大することになるでしょう。

ユースケースごとに持続的なエコシステムをトライ・アンド・エラーで形成すべし

 具体的なユースケースを考えてみましょう(図1)。例えば、3次元空間を飛行するドローンを使った交通や物流では、飛行計画時の経路設定において天候や風速、建物・地物の存在など複数の地理空間情報を取りまとめて複数の運航ルートのリスクを評価できます。その際に運行ルートにある空間をキーとして各地理空間情報を紐づけることで、リスク評価作業を自動化したり、運航を効率化できるようになります。

 災害対策や救急といったユースケースはどうでしょうか。建物内での救急要請を受けた際、建築物のフロア情報や救急要請者の位置情報、災害の発生箇所、AED等の救急器具の設置場所などを紐づけて、救急要請者の場所への最適ルートを割り出したり、AEDの早期確保による現場での救急対応の迅速化に貢献したりすることが可能となります。このほか図1にあるように様々なユースケースが考えられます。

図1 空間ID活用のユースケース

とはいえ、「空間ID」の社会実装に向けては乗り越えるべき課題もあります。1つはステークホルダーが多岐にわたること。地理空間情報の作成者や提供者・更新者、サービスプロバイダ、データ連携基盤の運用者、サービス・データのメンテナンス事業者などの関与が想定されます。これらのステークホルダーが担う役割や環境はユースケースによって異なることも想定されますから、合意形成は必ずしも容易ではありません。

 これを乗り越えるには、「空間ID」の活用意義が見込まれるユースケースの掘り起こしをアジャイルに見極めたうえで、トライ・アンド・エラーで実証の取り組み繰り返すことが大事だと考えられます。そうしてはじめて、当該ユースケースにおける持続的かつ蓋然性の高いエコシステムが実現可能になります。このほか図2に示したような課題に一つひとつ対応しながら、3次元空間情報の活用ユースケースを確立していくことも肝要でしょう。

図2 空間ID活用までの課題例

PwCコンサルティング合同会社
シニアマネージャー
佐々木 智広