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カクレクマノミから「リスキリング」の本質を考える

更新: 2023年5月1日

  アニメ映画の主人公にもなったカクレクマノミは、オレンジ色に白い帯がポイントの愛らしい魚です。太平洋やインド洋にかけてのサンゴ礁に生息しており、日本でも沖縄の海で見ることができます。毒を持つイソギンチャクとの共生が特徴ですが、もう一つ、生まれたばかりのカクレクマノミはすべてオスだという大きな特徴があります。

 成長する中で、群れで一番大きな個体がメスになるのです。もしメスに何かあると、残った個体の中で一番大きなものがメスになります。約3万種いるとされる魚類で、カクレクマノミのように性転換する魚は約400種存在すると言われています。カクレクマノミのようにオス→メスだけではなく、群れの中にオスがいなくなるとメスからオスに変わる魚もいます。

 ホンソメワケベラという魚は、わずか30分でメスからオスに変わるとか。すごいですね。もっとすごいと思うのはダルマハゼです。この魚はオスからメスへ、またその逆にメスからオスへも何度でも変われるのです。オス同士やメス同士が出会うと、大きい方がオスに、小さい方がメスになるのです。状況に応じて転換する能力が半端ないと思います。

 さて、DX(デジタルトランスフォーメーション)に関する記事を読むと最近、「リスキリング」という言葉をよく見かけます。リスキリングとは“Re-skilling”のことで、人の持つスキルを再教育するという意味です。デジタルの力により社会やビジネス環境が大きく変わる時、求められる人のスキルも変わるというのは感覚的に理解できると思います。

 DXにおけるリスキリングは、システムを使う人、作る人の双方がその対象となっていることが特徴的なところです。まずは使う人。現場部門でシステムができる人というと、Excelを使ってデータをきれいに加工する人のことを指すことが多いですよね。確かにきれいなレポートやグラフはとても魅力的です。

 しかしビジネスの価値に直結する、より良い意思決定をするためにはデータ加工のスキルよりも、統計的に有意で高度な分析をするスキルが求められると思います。統計的な知識やツールのスキルを身につけることで生産性も業務品質も上がるからです。使い手から作り手にシフトをするリスキリングもあります。ローコードとかノーコードと言われる簡易なプログラミング手法が登場していますので、このようなシフトも現実的になっています。

 一方の作り手にも大きな変化があります。従来は自社でIT基盤を保有することが当たり前でしたが、最近はクラウド利用が一般的です。システム開発の仕方にもアジャイルなど新たな手法が出てきました。過去のナレッジがすべて役立たないわけではありませんが、新たなスキルと知識をしっかり身につけていかないと、より良い仕組みをデザインしたり構築したりできません。

 リスキリングというとテクノロジー関連のスキルばかりが注目されますが、このように使う人、作る人双方の状況に応じたリスキリングが求められるのです。カクレクマノミの例をみても、環境に応じて変わる能力が大事です。つまり環境に応じて求められる役割があり、そのギャップを埋めるのがリスキリングだと言えます。そんな能力、私たちも身につけたいですよね。

J.フロント リテイリング株式会社
グループデジタル統括部
チーフ・デジタル・デザイナー
野村 泰一