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オピニオン

日本のソフトウェア会社はベトナムに勝てない。その決定的な理由。

更新: 2023年7月1日

 この6月にベトナムのソフトウェア会社の開発センターを訪問する機会がありました。そこで衝撃を受け、痛感したのがこの記事のタイトルです。

 訪問の経緯は以下のような事でした。日本メーカーの駐在員としてベトナム法人の代表をしている古くからの友人がおり、その仲間たちとベトナム訪問の話が持ち上がり、コロナが下火になったこともあって急遽ベトナム行きを決めました。友人がいるホーチミンへの訪問だけだと、もったいないのでダナンに行くことを提案しました。

 ダナンは南北に長いベトナムの中部にあり、すでに雨季に入っているホーチミンより雨季に入るのが遅れるのでまだ乾季でした。7kmに及ぶ美しい海岸線は世界一のビーチとも言われ、世界有数のリゾート地でもあります。ダナンの近くにはベトナム最後のグエン王朝があったフエや、長崎の出島のような港町であるホイアンなど世界遺産の観光地もあります。

 駐在員を訪問するとはいえ、もともと観光目的の旅でしたが、出発の3日前にたまたま訪問した会社の社長から、「ダナンに行くなら、FPTソフトウェアを紹介するので訪問してみてはどうか」と提案をいただきました。観光に加えて視察もできるーー。一も二もなく訪問をお願いし、翌日にはFPTジャパンからOKの連絡をいただいて、訪問日程が決まりました。なんともラッキーなご縁です。

 羽田からホーチミン経由でダナンに向かい、当日はホイアン観光をしました。古都ホイアンの旧市街ではトゥボン川沿いにランタンが並び、郷愁をそそるノスタルジックで心地良い風景を堪能しました。

翌日がホテルから車で20分ほどのところにあるFPTコンプレックスダナンビルの訪問でした。FPTソフトウェアの開発拠点です。ビルはまだ建設中で2025年に完成すると、米国クパティーノにあるApple本社のような円形の構造物になり、1万人の社員が勤務する拠点になるそうです。当然、水や電気の負荷を低減する最新のエコビルです。FPT社の前身は食品加工技術会社(The Food Processing Technology Company)。1990年に技術開発への投資会社になり、現在は従業員4万2400人を擁する大企業です。FPTソフトウェアはグループ会社として1990年に設立されたベトナム最大級のIT会社で、2万6500人の従業員が在籍しているそうです。その開発センターが今回の訪問先でした。急な訪問にも拘らず、入り口には私たちのためのウェルカムメッセージボードがあり、1時間ほどのプレゼンテーションに加えて1時間ほどのオフィスツアー、施設内のカフェでのランチなど、心のこもったおもてなしをいただきました。

 まず驚かされたのは施設の規模です。広大な敷地には社員の宿泊施設やスタンドのついたサッカー場もあります。カフェテラスでは様々な食事が廉価に提供され、福利厚生は充実しています。ここまでなら日本の大手IT会社でも整っているでしょうが、決定的に違うのが教育施設でした。

 敷地内には幼稚園から大学までの教育機関があります。FPTには教育グループがあり、13の市と省にFPT大学があり、合計すると15万人を超える学生が学んでいます。ダナンの開発拠点でも教育システムが充実していて、産学連携の研修や徹底した新人のトレーニングプログラム、継続的なスキルトレーニングのための教場がたくさん用意されていました。日本法人のFPTジャパンから2週間の研修に来ている社員もいました。語学研修も充実していて、幹部社員は英語も日本語も達者に使い、日本語能力認定もN1クラスですから、日本人より正しい日本語が使えるレベルです。

 日本の大手IT会社で大規模な大学を運営しているところは1社もありません。業界全体にも大学を作って人材育成していこうという気概は感じられません。それでいていつも人材不足だと言い続けています。やるべきこと、やればできることをやっていないのだから当然だと思います。ベトナムと日本の決定的な違いは人材育成の仕組み作りにあります。

 ダナンの開発センターの社員の平均年齢は26歳だそうです。今まではオフショア開発の受け皿のような役割を持っていましたが、FPTジャパンには2500人の社員がいてダイレクトの受注を目指しています。もう日本の大手IT会社の下請けではなく、競合会社になりつつあるのです。若い人材が多いベトナムの発展の勢いは凄まじいものがあります。今では数百のIT開発会社があり、日進月歩で進化しています。変わろうとしない日本のソフトウェア会社に勝ち目があると思いますか?

CIO賢人倶楽部 会長
木内 里美