cio賢人倶楽部 ご挨拶

オピニオン

DXを阻む2つの要因とビジネスアナリシスの役割

更新: 2024年2月1日

皆様、本年もよろしくお願いします。

 さて2024年はどんな年になるのか、例えば日本企業のDXはいい方向に前進するだろうか。生成AIをはじめとするデジタルの戦いの第二陣で、日本は世界に勝てるチャンスをつかめるのだろうか。

 2016年からデジタルビジネスの普及・啓蒙に取り組むデジタルビジネス・イノベーションセンター(DBIC)という団体がある。昨年末、その共同代表を務める西野弘氏と話をした時、同氏は「DXがうまくいっている企業はまだまだ少ない」と言っていた。

 社長をはじめとする経営トップが、正しい意味で大きな危機感を持っていなければDX推進は難しい。ところが実際には経営トップが「当社のAIやIoT活用はどうなっているのか。大丈夫か」などというから、しぶしぶベンダーに丸投げするなど、無理やりデジタル技術を導入しようとしている企業が多いのだという。DXをデジタル技術を活用することだと考える、最悪のパターンに陥っているのである。

 言うまでもなくDXのXはTransform、すなわち変えていくということだ。何を変えるのかと言えば、ビジネスのやり方である。これまでのビジネスモデルやビジネスプロセスをデジタルを前提としているものに変えたり、新たなものに作り変えていくことだ。もちろん、そう簡単にはいかない。人や組織はなるべく今のままで変わりたくないわけで、そうした抵抗を打ち破る大きなエネルギーが必要だからだ。

 そのためにも一番大事なのは、Why(何のために)、Where(何を目指して)、What(何をやるか)という3つを明確にすることである。How(どうやるのか)やそのために使うテクノロジーは、その後に来るのだ。だからこそWhy、Where、Whatを導くためのパーパスが必要なのだ。DXが進まない企業は、パーパスづくりと、それを社員に腹落ちさせることを、まずやるべきではなかろうか。

 パーパスとは、その企業の存在意義でもあり、その企業のありたい姿である。その企業がどういうビジネスをして社会に貢献し、社員もワクワクするか、そうした到達したい姿をビビッドに描くことがDXの出発点である。そのパーパスこそが社員を鼓舞し、そこに到達するエネルギーを作るのだ。

 多くの日本企業では、DXで何をやればいいのかが明確に描けていないのだ。DXでやるべきことを見つけるためには、企業の志を明確にして、それを具体化したありたい姿を描かなければならない。そして、ありたい姿をどうやれば実現できるのだろうかと考え続ける中に、デジタルを使えばこうやればできるのではないか、と閃く瞬間がくるのだ。閃いたらすぐにやってみる。うまくいかなければ、やり直しながら、うまくいくまで続けていく。そうすることでDXは前に進んでいく。

 もともと多くの日本企業には、「世のため、人のためにこうしたい!」という志があったはずなのだ。DXにおいても、企業の志、すなわち企業のパーパスこそがDXの推進の原動力なのだと思う。DXとはパーパスをデジタルを活用して具体化しようとすることでもあり、パーパスがないとDXは進まないのだ。そのパーパスに向かって、どうやればそんな姿が達成できるのだろうかと社員がそれぞれの立場でいろいろと考え抜く中で、やるべきこと、そしてやりたいことが出てくるのだと思う。

 パーパスがないことに加えて、DX推進の大きな阻害要因がもう一つある。それは人材の問題だ。DXを推進するための人材が足りないということである。どうやってそういったDX人材を集めたり、あるいは社内で育成していくのかということが多くの企業の大きな課題となっている。では今求められるDX人材とは、どういう人材のことをいうのだろうか。AIを習得した人か、あるいはデータサイエンティストと呼ばれる人材なのだろうか?

 確かにデジタル技術のスキルは大切だが、それはあくまでも手段でしかない。DX人材とは、変化する環境に対応するため、ビジネスをどう変えていくのか、そのための手段としてのデジタルをどう使えばビジネスに価値をもたらせるかということを描くことができる人材のことではないだろうか。

 すなわち、ビジネスそのものをどうするのかを、デジタル技術を前提にして考えられる人材である。言い換えると、デジタル技術で何ができるのかを知った上でビジネスをデジタル技術を使って変革し、新たな価値を付加することのできる人材であるはずだ。

 そのためには、現状のビジネスの実態を明らかにし、その上でビジネスをどう変えていくべきかの道筋を検討し、それに至るためのデジタル化というソリューションを提示していく力が必要である。実はこの力は「ビジネスアナリシス」という知識体系としてまとめられており、日本では筆者が代表理事を務めるIIBA日本支部が普及・啓蒙を担っている。

 残念ながら日本での認知・普及はまだまだ進んでいないが、IIBA(International Institute of Business Analysis)がグローバル組織であることから推察いただけるように、海外ではビジネスアナリシスはDXに欠かせないと認識されつつある。日本でもDXの推進がどの企業にも求められる以上、今後は必ずビジネスアナリシス、およびそのスキルを備えたビジネスアナリストが求められるはずである。

 それに向けて筆者自身は、さらに一層、尽力したいと考えている。ビジネスアナリシスを活用することで日本のDXが進展することを期待しつつ、2024年が日本にとって良い年になることを祈念したい。そして「ビジネスアナリシス」という言葉を知らなかったという方はぜひ、この機会にビジネスアナリシスを勉強してみて欲しい。

TERRANET
代表 寺嶋一郎