オピニオン
”ビジネスアナリスト”の必要性を考える
更新: 2025年1月1日
あけましておめでとうございます。本年が皆さんにとって良き年になりますようにお祈りいたします!
さて、ここからは「である調」で書かせていただく。テーマは日本におけるDXの推進やITの活用が進まない理由である。結論を先に言えば、筆者はビジネスアナリシス(Business Analysis)が十分に認知されておらず、したがって実践されていないからではないか、と考えている。
ビジネスアナリシスはその名称の通り、ビジネスを分析する手段・手法である。ITの導入を例にすると、どういうシステムを作るべきかという要件定義が間違っていれば、いくら要件を満たすシステムを開発したとしても、ビジネス上の価値が出ないのは誰でも分かるはずだ(図1)。こういった計画や要求定義を的確に行えるようにするのがビジネスアナリシスであり、その専門知識や経験を積んだ人材がビジネスアナリスト(BA)である。
最近、ある外資系企業の日本法人に勤めていたBAから、BAの仕事の実際を聞かせていただき、BAがその役割を果たしている会社のITの導入の合理性や効率性に改めてびっくりした。その会社のIT部門にはプロジェクトマネジャー(PM)が数名、BAはその数倍の人数がいて、セールスやマーケティング、物流、人事などの業務に関わるシステムを担当している。
より具体的には業務、SAPなどITの橋渡し役として、経営とIT部門、そしてビジネス部門とITベンダーの間に入り、互いの通訳の役割を果たしている。コミュニケーションを円滑にし、システムの目的や要件定義などにおける齟齬(そご)を減らし、向かうべき方向の共通認識を作るのがBAだという。
ビジネスの人たちに寄り添いながら、さまざまな形で彼/彼女らの真のニーズを明らかにしたり、変革のためのITプロジェクトを提案したりもする。言い換えると、プロジェクトを開始する前に、BAは正しいニーズを捉えた要件定義を作っているわけだ。そしてビジネスの責任者の理解と承認を経て、PMと協働しながらベンダーなどと共に実装を行う形で仕事を進めるという。
この時、ベンダーに開発を任せきりにせず、BAがベンダーと密接に連携して要件の認識合わせを行う。PMはプロジェクトマネジメントに専念できるので開発はスムーズに進捗するし、手戻りも生じにくいので開発期間も大幅に短縮される。このようにBAはビジネスに責任を持ち、PMはプロジェクトに責任を持つわけだ。
そしてBAは各ビジネスや業務領域において常に改善や変革を企画しているという。システムの稼働後も、現場をよく知るBAが運用支援を行うことで、スムーズな運用移行が可能になり、現場でのトラブルも最小限に抑えられる。当然、稼働したら終わりではなく、稼働後の機能拡張や活用に責任を持つ。
日本企業でいつも問題になるERPの導入や更新に関しても、その外資系企業ではSAPの担当として数名のBAがいる。BAはそれぞれの担当領域のSAPのモジュールに精通し、それに対応する自社のビジネスや業務を熟知している。そのため、日本企業のように自社の業務の可視化もやらずに外部のSAPコンサルに多大な費用で依頼した挙句、導入において大混乱するような事態は生じない。
これに対し、BAがいない日本企業はどうか?ビジネス部門、IT部門、そしてITベンダー相互のコミュニケーションが不十分なケースが多いのではないか?事実、「相手はちゃんとやるだろう」「必要なことは伝えたのであとは相手の責任」などと思い込んで、システムの目的や要件の詳細の認識を合わせないままなので、プロジェクト進行中に要件の再確認や変更が頻発し、納期遅れとなったりするのは日常茶飯事である。
一方、海外企業(特に米国企業)では、プロセスオフィスと呼ばれる業務改善を担当する専門部署があるケースが多い。日本企業にこういった組織があるだろうか。BAの不在もそうだが、改善や改革を現場に丸投げし、自助努力に頼っている日本企業とはそこが徹底的に異なるわけだ。
ジョブ型人事が普及してない日本企業が一足飛びにこんな形にはなれないとは思うが、少なくとも専門職としてBAを認め、BAが活躍する部署を設置しなければ始まらない。そのための日本流のBAのあり方を、組織体制のあり方も含めてしっかりと考えていかなければならないと思う。それ以前に、優秀なBAの育成が喫緊の課題だし、経営層やIT部門、IT業界におけるBAの重要性の認識が必要なのはいうまでもない。
最後に日本と海外の言葉の相違について。BAには複数の専門領域があり、これまで述べてきたIT導入に関わる領域で活躍するBAは、欧米ではビジネスシステムアナリスト(BSA)と呼ばれる。そして日本の情報処理推進機構(IPA)がDX人材類型の一つとして必要性を提唱している「ビジネスアーキテクト」は、その定義を読む限り、BSAのことである。
一方、海外で「ビジネスアーキテクト」と言うと、企業のビジネスをさまざまな視点で可視化しながら、ビジネス全体の最適化を企画する専門職を指す。BAの専門領域の一つだが、BSAとは明確に異なる。IPAが、BSAをビジネスアーキテクトと称することにした理由は知らないが、この点、読者の皆様には注意して欲しい。
そうした多少の混乱、齟齬はあっても、2025年こそはより多くの人がビジネスアナリシスの重要性に気づき、BSA(IPAのいうビジネスアーキテクト)の育成や活用に取り組むようになって欲しいと願っている。
TERRANET 代表
寺嶋 一郎