オピニオン
「竹取物語」から理解するDXにおけるIT部門の姿とは?
更新: 2025年2月7日
平安時代の有名な作品とされる「竹取物語」(作者不詳)。主人公であるかぐや姫には5人の求婚者が現れます。かぐや姫は彼らに「私の望むものを手に入れた方と結婚します」と、無理難題を伝えます。その5人の取った行動パターンに注目してみたいと思います。
一人目は石作御子(いしつくりのみこ)。彼は「『仏の御石の鉢』を持ってきて」と言われます。仏の御石の鉢はお釈迦様が使っていた石の食器であり、光を放ちます。御子は天竺まで行かず、大和の山寺にあった普通の石鉢を持ってきます。本物ではないので、光を放たず偽物とバレてしまいます。
二人目は右大臣阿部御主人(みむらじ)です。彼が注文されたのは『火鼠の皮衣』。火鼠とは中国の妖怪で、その皮で作られた燃えない衣ですが、目の前で燃やされてしまって偽物だと発覚してしまいます。この二人の行動は似ています。見た目が近い偽物を持ってきて、品質の違いを指摘されてしまうというケースです。
三人目は大納言大伴御行(みゆき)です。彼は『龍の首の玉』を注文され、家来に加えて自らも探索します。しかし船が難破し、病で寝込んでしまうのでした。四人目は中納言石上麻呂(いそかみのまろ)です。彼は『ツバメの子安貝』を探すよう言われ、自ら木に登り落下して大けがを負います。この二人の共通点は、勝算のない課題に対して正面から挑んで砕け散ったことです。自ら行動を起こしたという部分は評価できますが、あまりに無謀で、失敗に終わってしまいます。
最後は、車持(くらもち)皇子です。彼は『蓬莱の玉の枝』を注文されます。それは根が白銀、茎が黄金、実が真珠という世にも珍しい植物です。彼はその植物と全く同じものを職人たちに作らせ、自分が取ってきたように振る舞いました。出来映えは素晴らしいものだったのですが、職人が「製造代金を払え」と現れ、ウソがばれてしまうのでした。
さて最近は業務の様々なシーンで効率化や生産性向上を求められます。人による工夫をやりきるのはもちろん、何らかのテクノロジーを活用するのは良くあることだと思います。しかし生産性向上は一回やればおしまいではなく、さらに求められます。ハードルがどんどん上がるのですね。
すると別のテクノロジーを使おうじゃないかということになります。この時、テクノロジーに詳しくない人にとっては、かぐや姫から難題を出されたような気分になるかもしれません。何とかしようと努力してみても、業務に対してうまくフィットせずに課題解決に繋がらなかったり、難しいテクノロジーに挑んで導入までは漕ぎつけたものの定着せずに砕け散ったり、社外に課題解決を依頼して高い費用を請求されたりするかもしれません。
DXを推進するにあたり、IT部門の役割変革が必須になります。一緒に課題を見つけたり、ソリューションを考えるワークショップを実施するなど能動的な行動をとるように自らを変えるのです。有望なシステムの案が見つかれば、試行錯誤的に内製開発したり、改良して定着を図ったりもします。
それで終わらず、例えば生まれたデータを使ってさらなる変革をデザインするなどのサポートをしていきます。ソリューション提供後のストーリーを紡ぎ続けるのです。指示したりされたりの関係ではなく、共に汗をかき、活動する姿勢が大切だと思います。かぐや姫は無理難題を押しつけて最後は月に帰ってしまいました。それとは真逆の、逃げない心が大切だと思います(笑)。
J.フロント リテイリング株式会社
執行役 デジタル戦略統括部グループシステム推進部長 兼 チーフデジタルデザイナー
野村 泰一