cio賢人倶楽部 ご挨拶

オピニオン

DX成功の鍵は「人」にあり! ~ANAが実践する、変革をリードする人財の育成とは~

更新: 2025年4月1日

 事業会社でデジタル人財の採用や育成を拡大する動きが広がっています。全日本空輸(ANA)を傘下に持つANAホールディングスにおいても2023-2025年の中期経営戦略において、デジタル人財を2019年比で1.6倍に増員することを掲げており、2026年の新入社員もグローバルスタッフ職(旧総合職)のうち実に3分の1に相当する20名がIT・データ系での採用を予定しています。

 一方でデジタル人財を増やせば未来は明るいのかというと、決してそうではありません。事業会社において重要なのはデジタルを活用した変革です。そのため社員には、中長期の将来を見据えたうえでデジタルを活用して事業の何を変え、何を実現したいのかをはっきりとイメージし、言語化できる能力が求められます。

 私が新人の頃、そのことの重要性を感じた忘れられないエピソードがあります。クレジットカードにICチップが搭載されていない時代、私の上司は「いつ頃になるかはわからないが、いずれクレジットカードにはICチップが搭載される。そうなったら航空券の代わりになりえる」と考え、一緒にさまざまな企業と議論を重ねました。

 10年以上を経て、その想いは国内線でチケットレス搭乗が可能なSKiPサービスとして、クレジットカードに搭載したEdyを利用することで実現しました。単に紙の搭乗券を電子化しただけでなく、チェックインカウンターに並ばずに直接、保安検査場に向かったり、手荷物を自動で預けられたりと、お客様の空港での過ごし方が大きく変わるきっかけになりました。このように自身のアンテナの感度をあげ、お客様のために未来を見据えることでビジネスモデルの変革が実現することを体感したことは私の礎にもなっています。

 最近では、私が所管するANAデジタル変革室にいる客室乗務員(CA)出身の若手社員が、あるスタートアップの技術を用いることで、インターネットが利用できない機内においても全CAが所有するiPad間をつなぎ、情報連携をスムーズにする開発を行いました。彼女自身が、フライト中に検証を重ねるなどした結果、お客様の機内食やお飲み物のオーダー、機内でのご様子などが瞬時に機内の全CAに共有されるようになったのです。1対1のお客様サービスから、チーム全体でのお客様サービスへと変化し、より満足していただけるように大きく変わってきています。

 このように、今も昔も、本質的に何かを変えることで、抜本的にお客様や従業員の体験価値を変えることができる種はさまざまなところに存在しています。では、どのようにしたら、そうした変革の種を見つけられるのでしょうか。当社でも試行錯誤の日々ですが、1つのチャレンジとして2022年より業務部門の人財に向けて「デジタルリード養成プログラム」を実施しています。

 本プログラムでは、1講座20名程度を上限にグループ内の職場から変革を自らの手で実現したいという課題感をもっている社員を募集し、約3カ月をかけて教育します。事前に事務局が参加者の上司と面談を重ね、その社員と一緒に職場課題の解決につなげる取組みを継続的に行っていけるかを確認した上で参加してもらいます。

 そうした職場からの応援をうけて開始する研修は、基本的なデジタル知識やデジタルツールの使い方はもちろん、ANAデジタル変革室の若手社員が伴走しながら参加者自身の職場課題について仮説設定し、検証を経て具体的な提言を行うものです。最終発表会では、空港支援業務プロセスの見直しや、データに基づくお客様体験価値の分析など、現実的かつ想いのこもった提案が行われており、変革人財が着実に育っていることを実感しています。

 研修終了後も、参加者同士の継続的な交流に加え、事務局が各職場の上司と対話して参加者が継続的に職場課題に取り組めるような業務アサインへとつなげています。このように各部門での変革の根を広げる取組みを地道に行っており、ここからさらなる変革の種が生まれてくることを期待しています。

 変革は一朝一夕には実現できませんが、デジタルやデータを活用しながら、社員一丸となって、広い意味で人やモノ、コトをつなぎ、皆さまから「ANAグループのサービスを利用してよかった」と感じていただけるように粘り強く取り組んでいきたいと思っております。変革を通じて、今の殻を破り、大きく羽ばたくことで、当社の経営ビジョンである「ワクワクを満たされる世界を」の実現を目指してまいります。

全日本空輸株式会社
上席執行役員 グループCIO
デジタル変革室長 加藤 恭子