オピニオン
CIOの育成策、情報処理技術者試験の再編から改めて考える
更新: 2026年3月1日
読者の皆様は、日本企業の情報システム責任者や担当者、技術者の育成に大きな役割を果たしてきた情報処理技術者試験制度の見直しが、現在進んでいることをどの程度ご存じだろうか。関心がない方もおられるかも知れないが、私はこの試験制度の見直しは、CIOという役割や位置づけ、およびその育成について改めて考え直す好機だと考えている。そのことをまとめた拙文にお付き合い願えれば、幸いである。
CIOのスキルは今も体系的に整理されていない
CIO(Chief Information Officer:最高情報統括責任者)という立場・役割は、1980年代後半に米国で生まれた。企業活動におけるITの重要性が高まると同時に複雑さが増す中、経営レベルでITを統括する職責が必要とされたためだ。日本では1990年代後半に欧米でのCIOの活動が紹介され、必要性が認識され始めた。「西暦2000年問題」などを契機として、経営陣がITリスクとIT投資を強く意識するようになった時期に広まり、現在に至る。
当初、CIOは「情報システム部門のトップ」という色合いが濃かった。現在では、ITを通じて業務や事業そのもののあり方を変えていく立場と位置づけられる。経営戦略とIT戦略のつなぎ役となり、IT投資の優先順位を決め、データ活用や業務変革を後押しし、経営変革をリードする立場でもある。技術を深く担うCTOや、デジタル施策を前面で推進するCDOと異なり、「情報」と「情報システム」を軸に経営全体を俯瞰して見る視点が、特に求められている。
このように日本企業でも定着したCIOだが、しかし、そのスキル体系や立場・役割については必ずしも体系的に整理され、広く認識されているわけではない。このためにCIOを巡っては2つの大きな課題があると私は見ている。1つは次世代のCIOを育てる環境が整っていないこと。スキル体系が整っていないので当然であるし、今、CIOに就いている方にとっても、これは悩ましいことかも知れない。もう1つは、CIO同士の横連携や情報交換の場が十分整備できていないこと。その結果、それぞれのCIOが持つ知見を、社会全体において効率よく活かすことができないのである。
情報処理技術者試験の高度区分が大再編!
一方、私は常々、CIOと親和性が高い公的資格として、情報処理技術者試験の高度区分にある「ITストラテジスト試験」が相当すると考えてきた。ITストラテジストとは「ITを用いた事業改革や業務改革を企画・推進できる人材」であり、「経営戦略に基づくIT戦略立案やシステム化計画の評価などを担える人材」と想定されている。難関で合格者の絶対数が少なく、知名度が低いのが悩ましい点だが、「ITと経営の橋渡し」を真正面から意識した能力認定試験である。”CIOの登竜門”に位置づけられると言える。
ところが現在、情報処理技術者試験が大きく見直されようとしている。ITストラテジストやシステムアーキテクト、プロジェクトマネージャ、システム監査技術者など9つの高度区分を統合。「マネジメント・監査領域」、「データ・AI領域」、「システム領域」という3つに再編する構想が示されている。再編の背景には、技術領域の急速な拡張とスキルの複合化があるとされる。職種を意識した専門区分という縦割りではなく、より横断的な能力を評価し認定する方向性である。想定するIT人材像自体も、単一専門型から複合スキル型へと軸足を移しつつあると見て良いのだろう。
試験制度再編の流れは合理的な側面がある一方で、CIOに求められる「経営とITをつなぐ人材」という輪郭が見えにくくなる点については懸念する。いわゆる「フルスタック型技術者像」は、IT人材として非常に魅力的であるものの、それは必ずしもCIOとは一致しない。技術の幅広さと経営判断に資する視座の広さは、重なる部分はあるものの、やはり別の能力軸だろう。したがって情報処理技術者試験制度が再編され、確立すると考えると、CIOに関しては役割の焦点を意識的に補う必要が出てくる。
実務コミュニティへの強化、拡充、参加が重要に
現在、多くの日本企業がDXやデータ活用、AI活用などを経営課題として掲げている。しかし現場では、ITが依然としてコストや効率化の文脈で語られる場面が多い。攻めの投資としてITを見て判断できる人材、事業と技術の両方を理解してIT投資を優先順位付けできる人材は、まだ必要充分とは言えない。特に中堅・中小企業では、CIOに相当する人材が不在のまま、個別最適の取り組みにとどまっている例も見受けられる。
他方、CIOやIT部門責任者は、それぞれの企業や組織において孤立しやすい構造もある。専門性がゆえに企業内では業務内容が理解されにくく、業種内あるいは業種を超えて業同じ立場同士で成功や失敗の知見を率直に共有できるような場も、実は思ったより多くはない。その結果、各社で似たような課題に個別に取り組み、同じ試行錯誤を繰り返しているということも起こる。こういった、企業や組織を超えた横のつながりの弱さは、日本企業のIT経営の見えにくいボトルネックにもなっている。
今後、CIOには継続的な能力のアップデートや実務コミュニティへの参加といった要素がより求められるはずだ。そのために例えば再編前後の試験合格を入口の1つとしつつ、その後の実績、学習履歴、プロジェクト経験などによってスキルを体系化し、将来のCIO候補者を育成する実務コミュニティを形成していく必要がある。さらに、そのようなコミュニティの中で持続的に学び続けること自体を評価する考え方へ、社会全体が移行していくことが求められる。
このような制度の設計においては、当然、試験制度の運営に携わる公的機関が果たす役割は大きい。一方で公的機関に頼ることなく、実践寄りのコミュニティや人材ネットワークを企業や個人主導で育んでいくことも重要である。もちろん、私たち「CIO賢人倶楽部」がその核を担うのでも良い。国家試験という枠組みと現場発の知見共有の二つが補完関係を伴って融合すれば、CIO人材育成のエコシステムは厚みを増すだろう。
当たり前だが、CIOという役割は肩書だけでは機能しない。経営とITを行き来しながら、組織の現実と将来像の間に橋を架ける翻訳者でありビジネスシステム設計者でもある。その力量は能力認定試験だけでなく、単なる我流の経験だけでもなく、多くの知見者同士の対話と実践と学習の積み重ねによって磨かれていく。その視点と素養を持つCIO増やしていくことがITを単なる道具から経営の中核へと近づけていき、結果として企業の競争力強化に貢献すると考えている。
株式会社りそなホールディングス
ITセキュリティ統括部 兼 IT企画部
島本 栄光
