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AIエージェントへの期待と「SaaSの死」、求められるIT部門の役割

更新: 2026年4月1日

このコラムの執筆を依頼された時、CIO賢人倶楽部代表の木内さんが IT Leadersにて月次連載されてきた「是正勧告」が2026年1月27日に最終回となったことを聞きました。2008年から17年間、合計209回の連載には改めて驚きましたが、それはともかく「是正勧告」最終回はやはりAIの話題で締めくくられています。

さて読者は「SaaSの死」という議論をご存じでしょうか?これを含めて、AI時代に求められるIT部門の役割について考察したいと思います。

誰もが可能性を感じるAIの現在地

木内さんが同コラムで指摘されたように、AIの研究はコンピュータが誕生して間もない1950年代から連綿と続いています。数値計算や論理演算といった知的な処理を行えるコンピュータを使って、人間の能力に匹敵する、あるいはそれを超える知能を人工的に実現することは研究者や技術者の夢であり続けてきたと思います。

現在のAIブームは20年毎のサイクルとして4回目になります。最近40年ほどの技術的な流れとしては、エキスパートシステムから機械学習(ML)、深層学習(DL)を経て、自然言語を操る生成AIへと進化してきています。生成AIにより、かつて人間だけの領域であった認知、推論、意思決定、創造といった高度な知的作業を、コンピュータが担えるようになったのは、ご存じの通りです。

そんな生成AIの仕組みは実際にはとても複雑ですが、裏側の仕組みを理解しなかったとしても生成AI側が寄り添ってくれます。簡単な指示で適切な推論を行ってくれますし、手持ちのデータや情報を与えると専門家であるかのように解釈、分析してくれます。今日では誰もが生成AIの可能性に大きな期待を寄せています。

一方、自ら生成AIのモデルを作るとなると話は違います。データの質と量、膨大な計算能力の確保はもちろん、適応領域の開発センスも重要です。学習については先行投資が求められますし、単にコンピューティングリソースが大量に必要となるのではなく、それを支える電力を含むエネルギー問題にも対処する必要があります。

データに関しても品質が高くなければ、データ自身のバイアスにより推論は正しく行われません。いわゆるハルシネーション問題です。データの解像度も高くする必要があります。非常に膨大な量で、かつ高い品質のデータを求められることになります。相当の投資余力と技術力がないと、モデルを構築することは困難でしょう。だからといって知識集合体としてのモデルを他国の企業に委ねて我々は利用するだけでいいのでしょうか。ここでは深堀はしませんが、筆者としては疑問があります。

社会変革のドライバーとしてのAIエージェント

少し話を変えます。生成AI、およびAIエージェントによるイノベーションは、1980年にアルビン・トフラーが社会変革を波として捉えた情報革命に次ぐ”第4の波”と言えるのではないでしょうか?

第4の波による変革の1つは「労働市場とスキル構造の変化」です。事務作業や各種のデザイン、プログラム開発などについては、AIを利用することで生産性を大幅に向上させることができます。McKinseyの2024年の予測では30〜50%の向上というものでしたが、すでにそのレベルを超えているかも知れません。最近、話題に上ることが多い米Anthropiicの「Claude Code」や「Claude Cowork」はプログラミングやワークフローを含む業務を丸投げすることが簡単にできるレベルになっています。

ホワイトカラーの仕事の多くはAIによる業務代替ができてしまうので労働力不足の緩和・解消になりえますが、一方でリスキリングを行わないと失業リスクも生みます。この変革については、例えば2024年内閣府が世界経済の潮流として「AIでかわる労働市場」(https://www5.cao.go.jp/j-j/sekai_chouryuu/sh24-01/pdf/s1-24.pdf) が参考になります。

「SaaS の死」とは?

次に冒頭で言及した「SaaSの死」に話を移しましょう。「AIエージェントにより、高収益を享受してきた多くのSaaSが不要になる」というもので、特に2026年1月12日のClaude Coworkの発表を機に活発に議論が行われています。実際に不要になったり倒産したわけではありませんが、2026年に入ってSalesforce や Service Now、Workday、Adobe、IntuitといったSaaSベンダー株価が20〜30%も下落しています。

読者の皆さんはこの議論をどう考えるでしょうか。SaaSとして提供されるソフトウェアは会計や人事、勤怠管理、営業支援などの業務系から、画像や動画編集のようなクリエイティブ業務に至るまで多岐にわたります。筆者はAI エージェントがこれらを代替するようなことはなく、むしろAIエージェントが散在するSaaS同士やデータを自律的に連携させ、タスクを遂行するようになると見ています。

確かにClaude Coworkで使えるプラグインの内容 (https://github.com/anthropics/knowledge-work-plugins) を見ると、特定の業務に最適化されたものは一部のSaaSを代替する可能性が高く競合します。しかしエージェントは言葉通り代理人の役割であり、デモを見るとPCのデスクトップに散らばっているデータを整理してフォルダーにまとめることを自動的に行ったりしています。誤解をおそれずに言えば、日本企業が大好きなRPAを高度に知的にした存在と言えます。

SaaSを含む基幹系アプリケーションの多くは、特定のユースケース向けに設計されておりデータの持ち方を含めてサイロになっている特徴があります。そのため、すべての機能をAIエージェントで代替するのは無理があります。

IDCは「SaaSは死ぬのではなく、再定義されるだけ」という趣旨のレポート(https://www.idc.com/resource-center/blog/is-saas-dead-rethinking-the-future-of-software-in-the-age-of-ai/)を発表しています。再定義とはSaaSベンダーの収益モデルが変わる、つまりこれまでの高収益モデルが崩れるという意味です。

IT部門に求められる、SaaS利用側としての視点

さてIT部門としてはこの再定義、つまりSaaS収益モデル破綻の可能性とAIエージェントの利用バランスをどう見立てるべきでしょうか?単に「SaaSベンダーもいよいよ受難の時代か」などと第3者的に眺めるのではなく、SaaSに関わる固定費を減らしながらビジネスプロセス/業務プロセスを大きく進化させる好機として欲しいと、筆者は考えます。

SaaSは一般に、機能を使うかどうかやどれくらいの時間使うかとは無関係に、利用人数×定額によるライセンス課金です。一部の機能しか使わない、あるいは月に数時間しか使わない利用者でも、様々な機能を毎日使う利用者と料金は同じなのです。それでも多くの企業は特に問題視することもなく、SaaSベンダーに料金を支払っているでしょう。

これに対し、AIエージェントを1ユーザーと見立ててすべての業務や作業を行うようにすればどうでしょうか?エージェントは文句も言わずにSaaSを使って24時間働いてくれます。人間のユーザーはSaaSを使わずにAIエージェントに指示しますからライセンスを減らせます。これは利用者数というSaaSベンダーの利益の源泉がなくなることを意味しており、そのため株式市場も反応しているものと想像します。

もちろんSaaSベンダーはそうした利用を簡単には認めないでしょう。その場合、ユーザー企業はどうしても必要なものはともかく、そうでもないSaaSはAIエージェントで置き換えたり、AIによるプログラミングで開発することを検討する必要があるかも知れません。

その上で前述した”高度に知的なRPA”としてのAIエージェントを、業務プロセスを動的に最適化・再定義する新しい層を築く技術と考えてSaaSとともに活用するべきです。SaaSとAIエージェントはクラウドネイティブな性質がありますから、APIやプラグインを利用することで、比較的容易に統合・連携ができます。

統合を扱う新しい層は、AIエージェントOSのようなものになると想定していますが、それはともかく、この統合・連携ができれば「超」上流のビジネス目的にフォーカスした業務プロセスを組み立てられるようになるはずです。それによりIT部門の役割をSaaSなどを調達・管理することから、技術の細部から潮流を捉えたうえで「超」上流へシフトさせるのです。

SCET Laboratory
菅沼 重幸